『M-1グランプリ』令和ロマン史上初の連覇の一方で“3つの不安”は解消されたのか
久々の『M-1』発の新生誕生へ
次に、放送後テレビ業界を盛り上げるような新星は誕生しそうなのか。 現在ゴールデン・プライムタイムで最も活躍している芸人と言えば、明石家さんま、浜田雅功、くりぃむしちゅーらベテランを除けば、千鳥、かまいたち、麒麟・川島明、チョコレートプラネットあたりで、『M-1』王者で言えばサンドウィッチマンくらいだろうか。 「放送終了後にバラエティでブレイクする」という現象も少なく、王者ですら「ゲストでスポット出演を重ねる程度」というケースが続いている。もちろん活躍の場はテレビだけではなくYouTubeなど多岐にわたる時代だが、『M-1』というテレビ発のスター候補だけに寂しさは否めない。 2015年の復活以降、『M-1』をきっかけにバラエティでブレイクした王者は霜降り明星と錦鯉あたりに留まり、それ以外のファイナリストでも、ぺこぱくらいではないか。『M-1』の盛り上がりとは対照的に、ファイナリストたちが「バラエティのレギュラーになれない」どころか、「各局のバラエティを一周することすら難しい」という状態が続いていた。 その点、今回は久々に全国区のスターが誕生しそうなムードが漂っている。実際、令和ロマンの連覇が決まった後、ネット上には「一番笑ったのはバッテリィズ」「自分の中ではエバース」などの声が続出していた。 さらに審査員の採点を見ると、ファーストラウンドでは9人中6人がバッテリィズに最高得点を付け、エバースにも9人中5人が2番手の高得点を付けたことも、テレビマンたちの起用を後押しするだろう。 ともにお笑いフリーク以外からの知名度が低く、バッテリィズは突き抜けたおバカキャラ、エバースは圧倒的な雑談力という武器を持つだけに、どこまで活躍の場を増やし、2025年のブレイクタレントランキングをにぎわせられるのか楽しみだ。
■『日曜劇場』最終回との両立は可能 3つ目の焦点は、2015年の『M-1』復活後、初めてTBS日曜劇場の最終回と放送がバッティングしたこと。 放送中Xのトレンドランキングは『M-1』が席巻していたが、日曜劇場の『海に眠るダイヤモンド』の関連ワードもしっかりランクインするなど存在感を放っていた。 では『M-1グランプリ』の視聴率はどうだったのか。関東ではここ3年間で最高の結果となるなど、ドラマの影響をほぼ受けることなく、変わらぬ強さを見せた。生放送の臨場感を前面に押し出した構成・演出は圧倒的で希少価値が高いだけに、どんなジャンルの番組が来ても負けそうにないムードがある。 一方、『海に眠るダイヤモンド』の視聴率は前週とほぼ変わらず、放送時間を倍増させたことを踏まえると、上々の結果と言っていいのではないか。もともとドラマは面白い作品ほど録画と配信で見る人が多いだけに、これからタイムシフト視聴率や配信再生数がどれだけ伸びるかにも期待できそうだ。 同作はTBSが誇る“プロデュース・新井順子×演出・塚原あゆ子×脚本・野木亜希子”という最強チームのドラマだからこそ『M-1』に真っ向勝負を挑めた感があるが、この結果なら来年も勝負できるのかもしれない。 『M-1』と日曜劇場の最終回という最高峰コンテンツがそろったことによって、この日はテレビ視聴者全体が増えた感があった。やはり質の高いコンテンツはテレビの前に人々を集め、リアルタイムで見させる力がある。それが実感できたことの価値は高いだけに、来年も両者がそろい踏みすることを期待したい。
■ 木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月30本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。
木村隆志