データ分析は「何を解くか」を明らかにせよ
■企業活動とは判断と決定、行動の帰結である まとめると、カーネマンの提唱する「組織とは判断と決定を生産する工場である」というパラダイムに従えば、すべての企業活動は以下のフレームワークで捉えることができます。 判断と決定の生産方法 → 判断と決定 → ビジネスの成果や問題 ここで、「判断と決定の生産方法」という言葉を、簡潔な言葉で言い換えたいと思います。「意思決定」という言葉は、『大辞林』によれば「ある目標を達成するために、複数の選択可能な代替的手段の中から最適なものを選ぶ」という行為を指しますが、ビジネスシーンでは日常的に「判断や決定を下す」という行為を含意する言葉として使っているように思います。 一方、工場では、製品の生産方法のことを、その段階的な側面を強調する意味で製造プロセスと呼びます。そこで、「判断と決定の生産方法」についても、その段階的な側面を強調する意味で「意思決定プロセス」という言葉で表したいと思います。意思決定という言葉には経営判断を思い浮かべる方もいらっしゃると思いますが、本書では、例えば「今日の晩御飯は何にするか」といった日常的な意思決定も含む意味合いで使います。 以下では、「意思決定プロセス」という言葉が頻出しますが、都度、「判断と決定の生産方法」を意味していることを思い出していただければ、本書『データ分析・AIを実務に活かす データドリブン思考』の趣旨を理解しやすいと思います。 「意思決定プロセス」という言葉を用いれば、前記のフレームワークは、以下のように書き替えられます。 意思決定プロセス → 判断と決定 → ビジネスの成果や問題 このフレームワークに従えば、意思決定プロセスがまずいから、不適切な判断と決定を行い、その結果、ビジネスや業務上の問題(目標と現実のギャップ)を生むのです。 改めて、あなたの会社では、様々な組織にいる様々な社員が、毎日のように、様々な判断と決定を生産している様子を思い浮かべてみてください。1人1人の社員は、意識していようがいまいが、何らかの意思決定プロセスにより判断や決定を生産しています。場合によっては、複数の社員による合議によって判断や決定を生産している場合もあります。 ある判断や決定は、次の判断や決定の前提になる場合もあります。例えば、商品開発では、コンセプトの決定⇒開発の決定⇒商品化の決定⇒発売の決定という段階を経て、新製品の発売に辿りつきます。 また、1つの判断や決定は、複数の成果や問題を生む場合もあります。例えば、製造業における出荷検査の判断は、製品品質と製品コスト(検査不合格による廃棄コスト)という2つの帰結を生むでしょう。 反対に、2つの判断や決定を併せることで1つの帰結につながることもあります。例えば、家電製品について、製品の設計判断と取扱説明書の内容決定の2つにより、使用時の事故という問題を生みます。 図表1-2は、これらをイメージして描いたものです。あなたの会社の様々な組織で行われている仕事の多くは、判断と決定の生産とみなせるのではないでしょうか。そして、その行動の帰結として、様々な成果や問題を生んでいることを実感できるのではないでしょうか。
河本 薫