データ分析は「何を解くか」を明らかにせよ
■組織とは判断と決定を生産する工場である カーネマンは、著書『ファースト&スロー』下巻の結論において、以下のように述べています。 「組織というものはすべて判断と意思決定を生産する工場である」 筆者はこれを読んだときに、我が意を得たり、と思いました。同時に、日本語として違和感を持ちました。意思決定とは「ある目標を達成するために,複数の選択可能な代替的手段の中から最適なものを選ぶ」(『大辞林』)という行為を意味します。つまり、選ぶ行為を生産する、ということになるわけですが、意味がよく分からないですよね。そこで、英語の原文に立ち戻ると、以下のように書かれているのです。 “an organization is a factory that manufactures judgments and decisions”. 正しく訳せば、 「組織とは判断と決定を生産する工場である」 になります。日本語版では、“decisions”を「決定」と訳すべきところを「意思決定」と訳されているのです。 あなたは、上記の日本語に違和感を持てたでしょうか。もし違和感を持てなかったならば、それは、日常生活や仕事において「意思決定」とは何か、その意味や行動をあまり意識していないからかもしれません。 話を戻しましょう。カーネマンの言葉において組織を企業と読み替えれば、「企業とは判断と決定を生産する工場」ということになります。これについて腹落ちしてもらうために、具体的な仕事を例に挙げて説明してみましょう。 例えば製造業においては、日々、操業計画を策定し、安全を確認し、品質を検査しています。これらは、カーネマンの捉え方に従えば、「操業計画の決定」を生産し、「現場の安全判断」を生産し、「品質の合否判断」を生産しているとみなせるでしょう。さらに、不良品の原因追求も、「何が原因であるかの判断」を生産しているとみなせるでしょう。 同じく小売業においては、日々、商品を発注し、売値を設定し、棚割りを決めています。これらは、カーネマンの捉え方に従えば、「発注量の決定」を生産し、「価格決定」を生産し、「棚割りの決定」を生産しているとみなせるでしょう。さらに、販促施策の立案も、「どれが最善の施策であるかの判断」を生産しているとみなせるでしょう。 以上のようなスタッフ的な仕事だけでなく、現場業務の仕事も「判断と決定の生産」とみなせます。例えば、コールセンターのオペレーターは、顧客との電話のやりとりにおいて、「返答内容の決定」を生産している。メンテナンス担当者は、機器の修理において、「故障個所の決定」を生産している。もちろん、経営者の仕事は、「経営判断」を生産しているとみなせます。このように考えると、現場業務から経営まであらゆる企業活動は、「判断と決定の生産」とみなせるのではないでしょうか。 そして、企業活動とは「判断と決定の生産」であるならば、企業活動のアウトプットは、「判断と決定の生産」の帰結とみなすことができます。様々な判断や決定を生産する結果として、新たな製品やサービスを生みだし、顧客に満足してもらい、利益を上げるのです。 裏を返すと、企業活動の問題(すなわち、アウトプットと目標のギャップ)は、「判断と決定の生産」がまずいから生じるとみなせます。例えば、「発注量の決定」の生産がまずいから、過小ないし過大な量を発注し、売り切れや売れ残りといった問題を生むのです。例えば、「品質の合否判断」の生産がまずいから、不良品の出荷という問題を生むのです。 強調したいことは、「判断と決定がまずいから問題が生じる」のではなく「判断と決定の生産のやり方がまずいから問題が生じる」と捉えることです。工場でも、「製品がまずい」ではなく「製品の生産のやり方がまずい」まで遡り、「製品の生産のやり方がまずいから、低品質な製品を出荷し、顧客クレームなどの問題を生む」と捉えることで、問題の解消策が見えてきますよね。同じように、「判断と決定がまずい」という捉え方では問題解消につながらず、「判断と決定の生産方法がまずい」まで遡り、「判断と決定の生産のやり方がまずいから、不適切な判断や決定をしてしまい、その結果、様々なビジネスの問題を生む」と捉えることで、問題の解消策が見えてくるのです。 例えば、不採算事業から早く撤退しなかったことがまずいのではなく、事業を継続するか撤退するかを判断する方法がまずいと捉えるのです。例えば、新規店舗の立地が悪くて売上げが伸びないことがまずいのではなく、新規店舗の立地を決める方法がまずいと捉えるのです。