降格寸前のぎっくり腰「あぁ!?」 コーチ“黙認”、坐薬で鎮痛…打ち明けた葛藤
夏場にぎっくり腰も坐薬で鎮痛剤「死に物狂いでやりました」
しかし夏に入り、試合前のノックで「ぎっくり腰をやってしまいました」。幸いにも程度は軽く、バットは振ることができる。全力は厳しいが走ることもできた。守備が問題だったが、置かれている立場上、怪我をしていると伝えたら即2軍行きは免れない。 まずは信頼する笘篠誠治守備・走塁コーチに「トマさん、すみません。腰やっちゃいました……」。こっそり打ち明けた。「あぁ!? で、打てるのか?」「打てます」「走れるのか?」「走ることはできます」。一瞬の間を置き、笘篠コーチからは「分かった。ノックは受けんでいい。打つ準備だけしておけ。そのかわり治ったら練習は倍な」。伊原監督にも報告を上げず“黙認”してくれた。 「助かりました。1軍に残してもらったからには絶対に打って、トマさんの気持ちに応えないといけない。死に物狂いでやったのを覚えています。鎮痛剤を坐薬で入れてプレーしました。坐薬の方が効き目も早いし、錠剤だと胃がやられちゃうので」 チームが首位で迎えた9月21日、西武はロッテに敗れたもの2位のダイエーが引き分けたことで4年ぶりのリーグ優勝が決まった。犬伏氏も優勝に貢献し、深夜まで美酒に酔った。ただし、翌22日も試合はある。出場を“辞退”したカブレラに代わり、相手先発も左腕の加藤康介だったことで「3番・一塁」でスタメン出場。その時点での犬伏氏は打率3割弱だった。 「加藤から2本打って3割に乗せることができたんです。途中で相手が右投手に代わったので、いつものように自分も交代かと思ったらそのまま出続けて……。凡退なら3割を切っていた状況だったんですが、苦手な右投手から打ったんです」 この年、自己最多の74試合に出場した。「初めてフルで1軍にいて、(151打席で)規定には到達していないけど、打率.307を打つことができた。伊原監督、金森さん、笘篠さんら、本当に指導者に助けられた1年でした」。それまでの11年間で1軍出場8試合の苦労人が、長打率.457と大暴れし、見事に輝いた。
湯浅大 / Dai Yuasa