どっちが狼で、どっちが羊か? ホットハッチ4WD対決! 国沢光宏がトヨタGRカローラとVWゴルフRを比較試乗!
乗り心地も大事! いいのはどっち?
限定70台のトヨタGRカローラ・モリゾウエディションと、20周年を記念して発売されたVWゴルフR 20 Yearsという特別な高性能4WDハッチバックでスポーツしてみた。モータージャーナリストの国沢光宏がリポートする。 【写真35枚】ゴルフRの気合いの入ったブレーキ! GRカローラのシートを取っ払った後席など、見どころ満載の詳細画像はこちら! ◆世界を代表するファミリーカー 少しばかり存在感が薄れたとはいえ、VWゴルフとトヨタ・カローラといえば世界を代表するファミリーカーである。ゴルフは2023年の欧州に於ける販売台数5位。カローラも日本の販売台数2位となった。興味深いことに両モデル揃って1970年代から高性能グレードをラインアップしてきた。ゴルフでいえばGTI、カローラがGTとなる。“伝統”を今でも引き継いでおり、最新作は両モデル揃って歴代最もHOTなハッチバックだったりする。 スペックを並べよう。初代VWゴルフGTIは標準車より100ccだけ大きい110馬力の1600ccで、サスペンションを変更した程度だったものの、乗ると(並行輸入車でした)驚くほど元気だったことを記憶している。今回試乗したVWゴルフRは20年前に登場した高性能4WDモデルだ。2000ccターボ・エンジンから333馬力/420Nmという4リッターV8並のパワーを引き出す。GTIがFFなのに対し、こちらはフルタイム4WDとなる。 トヨタ・カローラの場合、少し複雑だ。本家セダンのスポーツ・グレードは1995年に絶版となってしまうものの、欧州向けのトヨタ・オーリスとしてスポーツ・グレードを存続させていた。本家のスポーツ・モデルは絶版かと思われていたが、2022年にトヨタGRカローラとして突如復活! しかもパワーユニットにWRC参戦車両のため開発された1600ccターボをチューンナップして搭載するという、かつてないくらいバリバリの武闘派としてよみがえったのである! ◆20周年記念モデル 前置きはこのあたりにして試乗と行きましょう! VWゴルフRから。座り心地の良いセミ・バケットシートに座りプッシュ・ボタンでエンジンを始動。厳しくなった騒音規制対応のためか、期待を裏切る静かさである。Dレンジをセレクトして走り出す。VWに共通する7段湿式タイプの大容量DSG(ツインクラッチ)は上手に躾けられており滑らかだ。アクセル全開で加速するとシフトアップ時に「ぼふっ!」という気持ちよい音を出す。 1540kgのボディに333馬力は十分以上だ。ちなみに標準のVWゴルフRであれば320馬力ながら、今回試乗したのは20周年記念車で純正ロム・チューンされている。VWによれば0~100km/h加速は4.6秒という。奇しくも350馬力を発生する2.5リッター4気筒エンジンを搭載するポルシェ・ケイマンSと同じ。速いか遅いか聞かれたら「素晴らしく速い!」と答えておく。日本の道じゃこれ以上速くても使い切れないレベル。4WDなのでアクセルを全開にしても姿勢を乱さない。 クローズされたサーキットやテスト・コースではパドル・シフトを使うと一段と楽しい。スポーツしてるぜ! という感じだ。DSGはパドルだとシフトのタイムラグがほぼ無い。加えてトルコンATのようなスリップ感も無し。クラッチを踏んでシフトするより速い。まぁ最近のハイ・パフォーマンス・モデルって、競技車両を含め、この手のトランスミッションだ。どのギアを使うか悩むことなく、ステアリング操作に専念出来る。VWゴルフRを買ったらショート・サーキットに持ち込むことをお薦めする。 サスペンションはいろんな意味で意外だった。GTIを凌ぐRということで、もう少しハードなのかと思いきや、街中を流していてストレスの無いレベルだったりする。標準で320kPsという驚くほど高い空気圧を指定した235/35R19という超扁平タイヤから想像する乗り心地と全く違う。それこそ初代ゴルフに対するGTIのような雰囲気である。奥様が買い物に行くときに乗ったって違和感は無いだろう。快適性はメルセデスのAMGに近いです。 ただ、19インチ・ホイールいっぱいのサイズを持つブレーキなどを見ると、けっこう気合いが入っている。外観がほとんど標準モデルと同じということもあり(目立つのはタイヤ&ブレーキとスポイラーくらい)、全体的なイメージは初代から共通する「羊の皮を被った狼」だ。とはいえ価格はしっかり狼になっており、20周年記念車ということで792万8000円。円安という理由もあるが、少し前ならケイマンやAMGだって買えるレベルだ。 ◆武闘派のGRカローラ 続いてGRカローラ。見る限り武闘派である! ボディは前後共に専用プレスを使ったブリスター・フェンダーだ。後付けのオーバー・フェンダーと違い、新たに金型をおこさなければならない。この点だけをとってもトヨタのホンキ度が解る。さらに標準のグリルだと冷却性能に問題が出るため、左右に広げたバンパー部分まで吸気ダクトを増設している。こいつに大きなリア・スポイラーなんか付けたら競技車両のようになるだろう。 近寄るとルーフが汚れているように見える。さらに近くで見たらカーボン模様ですね。ルーフの重量は普通のクルマなら気にならないレベルだけれど、サーキットやラリーで横方向のGを掛けるとイナーシャになってしまう。アルミを使うという手もあるが、剛性と重量のバランスを考えればドライ・カーボンでしょう。そいつを躊躇わず使う。言うまでもなく驚くほど高いパーツです。これまたトヨタのホンキ度の表れだ。 それだけじゃない。ボディは標準のカローラに対し349点もスポット溶接の打ち増しをした上、2.7mの接着部分を採用。今回試乗したモリゾウエディションだと接着部分を3.3mに増やし、さらにブレース(補強材)まで入れている。全日本ラリーに出場している競技車両レベルです。カーボンのルーフとボディ補強だけで200万円以上の価値を持つ。一昔前のトヨタなら考えられなかったクルマ作りである。 ◆乗り心地が硬いGR 乗ってみよう。シートは専用のセミバケットだ。座り心地ではゴルフに一日の長がある。クラッチを踏みプッシュボタンで始動する。ゴルフより少し元気な音を出す。日本専用ということで騒音規制ギリギリまで頑張ったのだろう。こちらは6段MTだ。節度のあるギアを1速に送り込んでクラッチミートすると、おお! 武闘派です! 飛び跳ねるような硬さでこそないものの、奥さんなら「乗り心地悪いわね」というレベルかと。 このクルマ、サーキットでも試乗したが、ダンパーは標準のままでフルアタック出来るほど減衰力を持つ。競技レベルでこそないけれど、タイムアタックくらいなら全く問題なし! ちなみにモリゾウエディションはスポーツ・タイヤと、レースで使うSタイヤの中間くらいの性能を持つミシュランのパイロットスポーツCUP2を履く。少し上手な人だと筑波サーキット走って1分5秒くらい出せると思う。まさにクルマでスポーツできる。存分に楽しい! ただここまで気合いを入れたならダンパーにもう少しお金を掛けたい。残念ながらこのレベルのクルマだと日本製のダンパーでは厳しい。ザックスあたりを使えばポルシェ911GT3や、アルピーヌA110Rのような脳天を直撃する官能的なクルマになるだろう。GRも頑張ってダンパー・メーカーを育てようとしているようだけれど、WRCやF1で使えるようにならないと上質で高い性能を持つパーツは作れないだろう。 価格は標準のGRカローラ525万円に対しモリゾウエディションだと715万円。ボディ補強やカーボン・ルーフなど装備差を考えたらリーズナブルと思えるほどだ。オプション35万2000円のマットカラーは私なら選ばない。磨きたくなる派です。そしてココまで読んで頂いた方には申し訳ないが、GRカローラはモリゾウエディションも標準車も現在受注休止中。再開されるかどうかを含め、未定とのこと。 以上、駆け足で紹介した。ゴルフRは伝統通り「羊の皮を被った狼」、GRカローラが狼丸出しの武闘派だということが理解していただけたら嬉しい。クルマでスポーツする度が高いのは、GRカローラだ。ただどうしてもデザイン的に興味が湧かない。カローラのハッチバック、トヨタのチーフ・デザイナーが代わる前の作なのだった。プリウスくらいカッコ良ければ思わず飛びつきます。プリウスにGRカローラのパワーユニット載せたら爆売れか? 文=国沢光宏 写真=茂呂幸正 ■VWゴルフR 20Years 駆動方式 フロント横置きエンジン4輪駆動 全長×全幅×全高 4295×1790×1460mm ホイールベース 2620mm 車両重量 1540kg エンジン形式 直列4気筒DOHCターボ 総排気量 1984cc 最高出力 333ps/5600~6500rpm 最大トルク 420Nm/2100~5500rpm 変速機 7段自動MT サスペンション 前 マクファーソンストラット/コイル 後 マルチリンク/コイル ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク タイヤ 前&後 235/35R19 車両本体価格 792万8000円 ■トヨタGRカローラ モリゾウエディション 駆動方式 フロント横置きエンジン4輪駆動 全長×全幅×全高 4410×1850×1475mm ホイールベース 2640mm 車両重量 1440kg エンジン形式 直列3気筒DOHCターボ 総排気量 1618cc 最高出力 304ps/6500rpm 最大トルク 400Nm/3250~4600rpm 変速機 6段MT サスペンション 前 マクファーソンストラット/コイル 後 ダブルウィッシュボーン/コイル ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク タイヤ 前&後 245/40R18 車両本体価格 715万円(販売終了) (ENGINE2024年7月号)
ENGINE編集部
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