【MLB】ヘンダーソンが逝去 史上最高の一番打者の思いとは?
12月20日、リッキー・ヘンダーソンが65歳で亡くなった。通算1406盗塁、2295得点は彼が保持するMLB記録である。1982年のシーズン記録130盗塁も破られていない。 敵としても味方としても故人をよく知るトニー・ラルーサ監督(元ホワイトソックスほか)は「同点や1点リードしている場面で、最も危険な選手だった。爆発的なスタートだけでなく、(打撃フォームは)独特の構えでストライクを取りにくく(2190四球は歴代2位)、甘く入れば本塁打も打つ(通算297本)。野球IQが高く、盗塁も打撃も技術が高かった」と称賛している。25年にわたる長いキャリアで9チームでプレーし、2009年に殿堂入りした。 メジャーでの最後のシーズンは03年。独立リーグでプレーしたあと、7月にドジャースと契約し30試合をプレーした。筆者はそのシーズンは野茂英雄と石井一久の担当だったことで、球史に残る偉大な選手を取材できる機会をとても光栄に思った。8月22日、野茂が先発し7回を投げ15勝目を挙げた試合では、一番・左翼でスタメン。5回の先頭打者で左前打のあと、二番デーブ・ロバーツ(現ドジャース監督)のときに二盗を決めた。それは通算1405個目だった。 19年、アスレチックスが日本で開幕戦をしたときで、球団社長特別補佐のヘンダーソンに2月のキャンプ中にインタビューした。「マット・オルソン、マット・チャップマン、ブレーク・トライネンなど、若い素晴らしい選手がそろっている。昨季97勝しチームの雰囲気はとてもいい」とうれしそうに話していた。 その一方で「学ぶべきは点の取り方。昨季のうちはホームランや二塁打など長打に頼っていた。私は一番には一番、二番には二番の役割があると思う。野球の基本は大切だ」と力説していた。 野球史上最高の一番打者は「一番打者はホームランを狙うのではなく、いかに走者として塁に出るかを考えるべき。塁に出たらスピードで投手にプレッシャーを掛ける。二番打者は一番打者が次の塁に進むのを助け、三番、四番打者が生還させる。プレーオフを勝ち上がるには、いろんな方法で得点できないと」と説いた。 だが近年のMLBでは彼のような選手はいないし、多くが本塁打を狙うスイングになっている。「野球にはいろんなアクションがあり、得点の方法がたくさんあるからこそ面白い。自分が今、MLBでプレーしていれば、また違った野球を見せられると思うんだが」と球界の現状に不満を露わにしていた。 驚いたのは練習中、ほかのコーチたちはただフィールドに立っているだけなのに、ヘンダーソンが頻繁にストレッチをしていたこと。「この年齢(当時60歳)でもしっかりストレッチができるというのが私には重要。野球、ソフトボール、バスケットボール、水泳など、今でもスポーツはいろいろとやっている」と笑った。それだけに65歳での死去は驚きだった。死因は公表されていないが、ここ数カ月体調がすぐれなかったそうだ。 MLBはヘンダーソンのような選手を復活させようとして23年からのけん制のルール変更に踏み切った。球界のご意見番として、まだやるべきことがあっただけに残念だ。 文=奥田秀樹 写真=Getty Images
週刊ベースボール