“1杯500円”のフルーツジュースが売れるワケ エンタメ特化の次世代自動販売機とは?
最近、よく街中で見かけるようになった生搾りオレンジジュースの自動販売機(以下、自販機)。お金を入れるとその場で自動販売機がオレンジを搾ってくれ、新鮮なオレンジジュースを飲むことができる。 【写真】“1杯500円”のフルーツジュースを販売する次世代自動販売機 こうした生搾りオレンジジュース自販機を日本に初上陸させたのが、食品マシン事業を運営する『ME Group Japan 株式会社』だ。 2021年7月に生搾りオレンジジュース自販機『Feed ME Orange(フィード・ミー・オレンジ)』を関東エリアに設置して以来、スーパーマーケットやショッピングモール、駅構内といった場所に設置台数を拡大させ、現在は約400箇所に自販機が置かれている。 今回は、ME Group Japan マーケティングマネージャー・松野雅弘氏に、生搾りジュースの自販機ビジネスを始めた背景や、今後の成長性や将来性について伺った。 ・国内初の挑戦に立ちはだかる壁 ーー もともと『ME Group Japan』では自動証明写真機を全国に展開していたようですが、生搾りジュースの自販機ビジネスに参入したのはなぜですか? 松野雅弘(以下、松野):弊社は1963年に日本で初めて自動証明写真機を導入し、60年以上にわたってビジネスを展開してきました。しかし、日本の現状や市場を考えると、人口の減少に伴って自動証明写真機の需要が縮小していくことは避けられないと考えています。 そこで、事業の柱を自動証明写真機だけではなく、それ以外にも作る必要性を感じていました。その後、シンガポールやタイといった東南アジア、欧米で流行っていた生搾りオレンジジュース自販機に着目したんです。そのころ、生搾り自販機は日本にはまだなかったスタイルで、「日本で展開すればビジネスチャンスになるのでは」という発想から、2021年7月に『Feed ME Orange』を導入することにしたのです。 ーー 初号機は『渋谷マルイ』に設置されたとお伺いしましたが、この場所に決めた理由を教えてください。 松野:当時の食品衛生法は「人が加工して提供する」ことが前提になっており、生の食材を加工・搾汁してカップに注ぐといった工程を「マシンが行って提供する」ための基準がありませんでした。 たとえばカップラーメンの自販機の場合、お湯を注ぐという工程は加工にならないわけですが、『Feed ME Orange』の場合はマシンが生のオレンジを丸ごとカットする時点で調理にあたり、「人の手を介さずにジュースにして提供する」という基準がなかったんです。 そして、『Feed ME Orange』を導入する際に、保健所から最初に営業許可をいただいた際の項目は、喫茶店営業としての許可でした。『渋谷マルイ』の設置場所は無人なのですが、喫茶店が提供する商品のような形であれば安全性の問題はないと判断いただき、無事に設置が決まったのです。 ですが、保健所ごとに独自の基準を定めているため、設置場所の拡大には日本上陸から半年~1年ほどかかり、苦労しました。渋谷エリアの保健所ではOKでも、新宿や池袋のようにほかのエリアにマシンを設置する場合には、管轄の保健所に都度伺ってサービスの安全性を説明し理解していただく必要がありました。 ・メンテナンスは専門のチームを発足 ーー サービス開始から3年で400台の設置を実現できたわけですが、どのような苦労があったのでしょうか? 松野:そのころはまだ生搾りオレンジジュース自販機が日本になかったこともあって、幸いにも多くのメディアに取り上げていただきました。その影響から徐々に保健所からもサービスの安全性を理解していただけるようになり、結果として導入が進んでいきました。 加えて、2022年には厚生労働省から正式に認可を受けたことで、設置場所を拡大する上で大きな追い風になりましたね。 『Feed ME Orange』の主な利用層は幅広く、オレンジジュースは老若男女関係なく親しめる飲み物のため、さまざまな世代のかたに愛されるものとなりました。なかでも女性のお客様には、多くご利用いただいています。 ーー 『Feed ME Orange』のメンテナンスはどのように行っていますか? 松野:基本的には弊社が設置からメンテナンスまでフルサポートしています。サービスを始めた当初は、自動証明写真機と 『Feed ME Orange』のメンテナンスを両方担当するメンバーがいた時期もありましたが、設置台数の拡大や作業の効率化などの理由で、いまではフード事業専門のメンテナンスチームを作って対応しています。 やはり、自動証明写真機と比べて生搾りジュース自販機の方が、鮮度管理やオレンジの入れ替えなどのメンテナンス頻度が多く、片手間ではできないんですよ。 ーー ちなみに売れるエリアでは、1日どのくらいの数が出るのでしょうか? 松野:たとえばアウトレットモールなど、新規のお客様が多く訪れるロケーションに設置している自販機に関しては、1日に200杯ほど売れるケースもありますが、場所によってはそこまで売れないところもあるため、「チャンスロスしないための需要予測」は難しいと感じています。 我々がパイオニアである以上、その点に関しては責任感を持つべきだと捉えており、日々の売れ行きや曜日に応じてオレンジの入れ替えタイミングを予測しながら、できるだけロスができないように調整していますね。 ・目指すはロイヤリティの高いファンの増加 ーー 生搾りジュースの金額は500円と、ほかの自販機よりも割高になっていますが、どのように需要喚起を行っているのでしょうか。 松野:昨今の物価高の状況下で、「ジュース1杯に500円を払うのは高いのでは」と感じるお客様もいらっしゃるかと思います。(*設置場所によって販売価格は異なる) その一方で、果物のオレンジを1個買うのに100円以上かかるとすると、『Feed ME Orange』では1杯にオレンジを3~4個使用し、さらに搾る手間や出来立てで飲めるメリットを考えたら、500円という値段は相応だと捉えていただけている方もいらっしゃいます。そういった方にリピート購入していただいていますね。 松野:飲食店や喫茶店でフレッシュジュースを注文すると多くの場合、氷が入っているためにどうしても味が薄くなってしまいますし、スーパーなどで販売されている100%濃縮還元のオレンジジュースには香料が入っているため、オレンジ本来の持つ味わいを楽しむのが難しいんです。 そんななかで、『Feed ME Orange』はフレッシュかつ無添加で氷を使用しない生搾りオレンジジュースとして、独自のポジションを確立していくとともに「マシンが自動でオレンジジュースをつくる工程を観察できる」というエンタメ性を伴った感動体験も付加価値として訴求していければと思っています。 ーー 直近では『Feed ME Apple』を新たに開発しましたよね。 松野:弊社としても、さらにフード事業を拡大しようと考えており、オレンジの次はアップルの生搾りジュースが味わえる『Feed ME Apple』を日本向けに開発しました。 ヨーロッパではスーパーなどでアップルを購入し、その場で卓上型の生搾りマシンを使って、フレッシュジュースに加工して持ち帰る文化があるのですが、そこから着想を得た商品になります。まずはユーザーの反応を見つつ、設置場所の拡大も順次行っていく予定です。 ーー 最後に今後の展望について教えてください。 松野:現在の主な設置場所は小売店やスーパー、商業施設などが多いですが、これからはインバウンド需要をさらに取り込むために、交通量が多い観光地などの開拓も進めていきたいと考えています。 また、単に設置台数を追っても、付加価値を感じてもらえるお客様に届かなければ利益につながりません。そういう意味では、いかにリピート率の高いロイヤリティ顧客を作るかを念頭に置きながら、オーガニックでビジネスの成長ができるように尽力していければと思っています。
古田島大介