ウェッブ宇宙望遠鏡が原始星周辺の氷の粒から複雑な有機化合物を発見
有機分子の検出に高い解像度を発揮するウェッブ宇宙望遠鏡
原始星の周辺に存在する有機分子を特定するために用いられるのが赤外線観測装置です。原子や分子はそれぞれ固有の回転運動や振動をしており、こうした運動は特定の波長の赤外線の吸収につながります。そのため、赤外線を観測することで、どのような原子や分子が存在するかが判明するといいます。 これまで、メタノール(CH3OH)よりも大きな分子が氷の粒の中から検出された事例はありませんでした。しかし今回、ウェッブ宇宙望遠鏡を用いた観測によって、氷の粒に含まれるギ酸メチル(CH3OCHO)、エタノール(CH3CH2OH)、アセトアルデヒド(CH3CHO)、酢酸(CH3COOH)などのCOMsが検出されただけでなく、これらのCOMsが氷の粒で形成された可能性があることが明らかになりました。氷の粒からCOMsが発見された要因のひとつとして、ウェッブ宇宙望遠鏡に搭載された赤外線観測装置のもつ高い分解能が論文で指摘されています。 ウェッブ宇宙望遠鏡が打ち上げられる前に赤外線観測に使用されてきた宇宙望遠鏡として、2020年1月まで運用されてきた「スピッツァー」宇宙望遠鏡が挙げられます。スピッツァー宇宙望遠鏡は明るい低質量の原始星を観測する程度に十分な感度をもつ一方で、スペクトル解像度は高くありませんでした。これに対して2021年12月に打ち上げられたウェッブ宇宙望遠鏡は、中解像度分光器(MRS: Medium Resolution Spectrograph)を伴う中間赤外線観測装置(MIRI:Mid-Infrared Instrument)を搭載していて、質的に優れたスペクトル分解能をもちます。MIRIは7~8μmの波長で高い感度を発揮し、スピッツァー宇宙望遠鏡の分解能(約60)を上回る3500~4000程度の分解能をCOMsに対してもつといいます。 NASAジェット推進研究所(JPL)は、原始星「IRAS 2A」が低質量であることから、太陽系の初期段階との類似性を指摘しています。今回、ウェッブ宇宙望遠鏡が氷の粒からCOMsを発見したことで、ガス相のCOMsは氷の粒が昇華したために発見されてきたのだと考えられ、地球型惑星に届けられる有機分子の起源の理解を深められるとしています。 Source NASA JPL - Cheers! NASA’s Webb Finds Ethanol, Other Icy Ingredients for Worlds Astrobiology at NASA - How Hot Were the Oceans When Life First Evolved? Astrobiology at NASA - Life, Here and Beyond doi:10.1051/0004-6361/202348427 - JWST Observations of Young protoStars (JOYS+): Detecting icy complex organic molecules and ions doi.org:10.48550/arXiv.1801.05456 - The Delivery of Water During Terrestrial Planet Formation
Misato Kadono