桂春蝶「伝えたい想い」10作目は太陽の塔 「芸術は呪術だ」岡本太郎の思いを探る
生きることの苦しみと救いを語る落語家、桂春蝶(49)の「落語で伝えたい想い」シリーズ。6月、噺家生活30年の節目に披露する第10作「太郎と太陽と大」は、自身のルーツだという「太陽の塔」がモチーフだ。岡本太郎(1911~96年)が土偶をイメージして塔をデザインしたという説を端緒に縄文時代から昭和、そして現在へとつながる物語で、人間の幸せの根幹を問う。 太陽の塔は、昭和45(1970)年に大阪府吹田市で開催された日本万国博覧会(大阪万博)で、お祭り広場やテーマ館を覆う大屋根を貫くように建造され、万博閉幕後も解体されずに残った。50年に同市で生まれた春蝶にとっては、そこに当然のように建っているもので、「ずっと、好きだなと思っていたんです」。 岡本は土偶に心酔し、人々が原始的な暮らしをしていた縄文時代に心を寄せていたという。太陽の塔は土偶をモチーフにした、「人類の進歩と調和」という万博のテーマへのアンチテーゼだと解されている。 春蝶は、戦争や病気などを題材に「伝えたい想いシリーズ」を創作する中で、アイヌや沖縄の文化にみられる原始的な観念や死生観に強くひかれることに気付いた。なぜなのか自分でも分からずにいたが、太陽の塔の内部で岡本の言葉を目にしてはっとした。 「芸術は呪術だ」。春蝶は子供の頃、いつも塔の見える広場で遊んでいた。「塔からのおまじないに影響を受けていたとしたら、すてきだと思えました」。岡本が太陽の塔にどんな思いを込めたのか、自分なりに解き明かしたいと考え、第10作「太郎と太陽と大」を生み出した。 同作は縄文時代の第1部と、万博開催前からその後へと続く第2部で構成される。縄文時代にある思いで作られた土偶を見た岡本が太陽の塔を造り、思いが受け継がれていく物語だ。 稲作の広まりで貧富の差が生まれる前の縄文時代の人々は、「誰の支配も受けず、自然以外の不条理はなかった。災害や死ですら、自然の営みの一部として受け入れていたかもしれない」と想像する。 その日の糧だけを求めて生きる。そんな時代を思うことで、「周囲の概念にとらわれることなく、自分は何があったら幸せなのか。どう生きたいのかに気付いて、楽になってほしい」と思いを明かす。