期待とリスク…AIとの共生探る 科学技術・イノベーション白書が特集
科学研究利用に求められる「透明性」と「機密性」
第4章では、科学研究を加速するAI「AI for Science(フォー・サイエンス)」を、事例と共に解説している。観測データからノイズを除去するなど「科学データの改良や情報の抽出」、創薬などに役立つ「シミュレーションの高度化、高速化」、家事や介護を支援するロボットに求められる「リアルタイムの予測や制御」、人間の認知の限界やバイアス(偏り、先入観)を超えた発見につながる「科学的仮説の生成や推論」、さまざまな条件に柔軟に対応する「実験、研究室の自律化」――を挙げた。 AIのさらなる活用に向け、基盤モデルやアルゴリズム(手順、手続き)の開発が理化学研究所などで進む。日米連携も進展。科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業では、2021年度から研究領域「データ駆動・AI駆動を中心としたデジタルトランスフォーメーションによる生命科学研究の革新」で公募を行い、17件の研究課題を採択し支援してきた。 量子コンピューターを使う研究も加速。また大規模言語モデルは自然言語だけでなく、アミノ酸配列などを大量に学習させることなど、生命科学でも活用され始めている。 AIによって実験やシミュレーションが効率化することで、研究者は課題設定や研究計画に専念することが重要となる。 AIを科学研究で活用する上での課題も提示した。例えば、AIモデルや学習データの透明性の確保が重要となる。AIは必ずしも内容に責任を負わないため、学術誌の出版社はAIが論文著者になることを認めず、またAIの作成画像を使用すべきではないとしている。ほとんどのAIモデルがユーザーの指示や質問内容をトレーニング材料として使用するため、情報の機密性に対する懸念もある。AIと著作権、特許をめぐる議論も示した。 第5章では、行政や企業の活用事例を紹介した。AIは身近な技術となりつつあるが、複雑性や(仕組みが見えない)ブラックボックス性、悪用の恐れなどを認識し、責任ある行動を取れるようリテラシー教育が重要とされることに触れている。 第2部は政府が昨年度に取り組んだ科学技術・イノベーションの振興策をまとめた。「令和6年能登半島地震における研究開発成果の活用事例」「地方公設試の技術開発と海外での知的財産権の保護」「近年のメタサイエンス運動の広がりについて」などのコラムも盛り込んだ。
表紙と扉絵は、AIがさまざまな研究分野で活用され、新たな価値や知が生まれて広がっていくことを、神経細胞を模したキャラクターやタンポポの種を描くことで表現している。