今後、AIが引き起こす「電力戦争」
先月、米国の半導体大手エヌビディアは、Blackwell(ブラックウェル)という新しいAIコンピューティングプラットフォームを発表した。AIの進化が速いことは知られていたが、ジェンスン・フアンCEOは、Blackwellはエヌビディアの現行の最上位チップよりも30倍も速く動作すると語った。 AIが世界の舞台に登場したのは突然のように見えるが、人工知能のアイデアは1950年にまで遡る。当時、英国の暗号解読者アラン・チューリングが、コンピュータが人間のふりをして観察者を欺くことができるかどうかを確かめるテストを提案した。それ以来、AIソフトウェアは何度も「偽りの夜明け」を迎えてきている。1980年代、1990年代、2000年代初頭には、AIスタートアップが一時的に投資家の注目を集めたものの、今に至るまでAIは約束の域を出ず、実用に耐えるものではなかった。ビジネスへの準備が整っていなかったのだ。 何が変わったのか? 2つの要因がある。1つは「トランスフォーマー」と呼ばれる新しいAI言語モデルで、2017年にグーグルで誕生し、今日の生成AIを可能にしたものだ。もう1つは、エヌビディアチップの驚異的な処理能力だ。新しいBlackwellチップには2080億のトランジスタが搭載されている。エヌビディアによれば、Blackwellは27兆個のモデルパラメータをサポートすることができ、これは現在利用可能なものから処理能力を飛躍的に向上させるものだという。Blackwellの最初の供給先の1つはマレーシアだ。兄弟で14億ドル(約2165億5000万円)の財産を共有するフランシス・ヨーが経営するマレーシアの企業グループYTLが製作するスーパーコンピュータのために利用される。
大量の電力の争奪戦に
つまり、蒸気船からジェット機への移行のようなものだ。適応しなければ、企業は急速に衰退する。都市や国も同様だ。 過去50年間で世界がどれほど変化したかを考えてほしい。中国は生まれ変わった。東南アジアは好景気に沸いた。インド、中東、南米、そして今ではサハラ以南のアフリカの一部も同様だ。コミュニケーションはほとんどの人にとって即時かつ手頃な価格のものになった。資本は完璧ではないが、驚くほど上手くチャンスへと集まっている。さて、この50年間の変化が10年か20年に圧縮されたらどうだろう。これが今、私たちが足を踏み入れている世界だ。 AIの加速を止めるものはあるだろうか? 政府は安全とセキュリティを口実に、混乱を恐れる古い企業と手を組んで、阻止しようとするだろう。しかし、この話は歴史の中で何度も繰り返されてきた。進歩は必ず道を見つける。障壁を乗り越えられなければ、飛び越えたり、迂回したり、トンネルを掘ったりするだろう。 だが、破るのがそう簡単ではない障壁の1つが電力だ。AIは電力を消費する。それも、想像以上に大量に消費する。世界はすぐに電力不足に陥るかもしれない。 米国時間3月7日、ワシントン・ポストは「爆発的な需要の中、米国は電力不足に陥っている」と題した記事を掲載した。 同メディアはは次のように述べている。「電力を大量に消費するデータセンターやクリーンテクノロジー工場が全国に急増し、公益事業者や規制当局は、老朽化した国の電力網を拡張するための信頼できる計画を模索している中、米国の広大な地域が電力不足のリスクに直面している【略】バージニア州北部では、計画中および建設中のすべての新しいデータセンターにサービスを提供するために、いくつかの大型原子力発電所に相当する電力が必要とされている」 AIの時代には、もっと多くの電力が必要になるだろう。将来の繁栄のためにも同様だ。その電力を供給するための競争が激化している。企業、国、都市は、利用可能で信頼性が高く、手頃な価格の電力を求めて競争するだろう(そして銅は電力に不可欠な鉱物となっている)。
Rich Karlgaard