トマーシュ・ソウチェク。再び欧州の頂を目指す傷だらけの大型ボランチ
文 田島 大 ウェストハムのチェコ代表MFトマーシュ・ソウチェク(29歳)は傷だらけのプレーヤーだ。 今では世界最高リーグでプレーし、代表チームで腕章を巻くソウチェクだが、必ずしもエリート街道を歩き続けてきたわけではない。母国のスラビア・プラハでプロキャリアをスタートさせるも、出場機会を求めて19歳の時にローン移籍先を探したが、トライアルを受けたチェコ2部のクラブからは「不要」と断られてしまった。「ローン移籍に出ようとしたが2度も断れた。僕は13、14歳の頃にスラビア・プラハのユースチームでベンチだったしね」と過去に挫折を明かしたことがあった。 そんなソウチェクは先日、クラブ公式ポッドキャスト番組に出演して自身のキャリアを振り返った。今では守備的MFとして中盤の中央に君臨する192cmのソウチェクだが、若い頃はストライカーだったという。「子どもの頃、5歳から12歳まではストライカーだった。でも、徐々にポジションが低くなっていったんだ。ストライカーはゴールを決めないといけないのでプレッシャーがかかることが多いからね。ゴールを決めるよりも守るほうが簡単だから、今は自分のポジションに満足しているよ」
「なぜいつも、あなたなの?」
スラビア・プラハのユース時代には、その体型を生かすために彼をCBにコンバートさせる案もあったそうだが、元アーセナルのセスク・ファブレガスのようなゲームメイカーに憧れていたソウチェクは話を断った。結局、憧れた華麗な選手にはなれなかったが、質実なプレーでセスクが一時代を築いたプレミアリーグの舞台に辿り着いた。汗をかき、体を張ったプレーでチームを支え、得意の空中戦からゴールで貢献する。そのためケガが付き物で、とりわけ頭部の裂傷が多い。ケガを恐れないハードなタックルで名を馳せ、今はポッドキャスト番組のMCを務める元ウェストハムのDFジェイムズ・コリンズが「自分も頭部を何度かケガしたが、君ほど頭から突っ込んでいく選手は見たことがないよ」と驚くほどだ。 何回くらい頭部をケガしたことがあるかと聞かれたソウチェクは「手では数えきれないかもね」と冗談で返したあと「5、6回ほど頭をケガしているかな」と明かす。頭に包帯を巻いて家に帰ると「なぜいつも、あなたなの?」と妻に怒られるそうだ。 「僕はそういう人間なのさ。別に競り合う際に、ケガをしたいわけではない。でも、危険なプレーでも絶対にボールを奪いたいと思う。擦り傷や縫い傷くらいなら大したことないからね。(昨年8月の)ブライトン戦ではGKと接触して、結構ひどいケガをした。脳震盪だったよ。切り傷よりも、そっちのほうが深刻なんだ」 派手なプレーとは無縁のソウチェクだが、柄にもなくユニフォームを脱いで喜んだことがある。今年3月、敵地でのエバートン戦で、後半追加タイムにボックス内で胸トラップから右足を振り抜いて決勝点をマークしたソウチェクは歓喜のあまりユニフォームを脱いだ。「ウェストハムのキャリアで1番重要なゴールだろうね。もしかすると、僕のキャリア全体を通しても1番かもしれない。90+2分にトップコーナーにゴールを決めるなんて凄いことだからね。ユニフォームを脱いで祝ったのはキャリアで初めてのことさ」