名産タチウオ、漁獲量が激減し大ピンチ 呉市産かつては広島県内の6割占めていたが、中心漁協の取り扱いほぼゼロに
広島県呉の三大水産物の一つとして知られるタチウオの漁獲量がここ数年、激減している。かつては広島県内の漁獲量の6割前後を占め、呉市がブランド化も進めていた。中心だった呉豊島漁協(同市)の取扱量はほぼない状態だ。「名物の一つが消えてしまう」と地元住民は肩を落とす。 【グラフ】タチウオの漁獲量 市農林水産課がまとめた統計によると、2010年の漁獲量は広島県で962トン、うち呉市は558トンだった。それ以降、減少傾向で、18年には県で179トン、呉市で100トンまで減った。 国の制度変更で市単位の記録は19年からない。ただ、10年に市の約半数の290トンを取り扱っていた呉豊島漁協は18年に11トン、22年には0・5トンとなっているという。 市はタチウオをカキ、シラスと並ぶ三大水産物と位置付ける。一本釣りで傷がなく、見た目が美しい豊島産は19年、地域の農林水産物や食品のブランドを守る農林水産省の地理的表示(GI)保護制度に県内で初めて登録された。 豊島の漁師の北江文彦さん(69)は、ヒジキ採りやイカ漁で生計を立てている。「最盛期はタチウオで年に1千万円以上稼ぐ漁師も多かった」。新規漁業就業者として約10年前に広島市から同島に移住した折出満さん(48)はレモン栽培に転じた。「タチウオで生活できたのは数年間だけ。不漁の原因が分からず、どうしていいやら」と表情を曇らせる。 同島で約30年間営業する食堂「マリちゃん」はタチウオでだしを取ったラーメンが名物だ。店主で元タチウオ漁師の西中マリ子さん(77)は「ここ数年は提供できない日が増えた」と残念がる。 全国の漁獲量は10年が1万81トンで、22年は6850トンだった。水産研究・教育機構水産資源研究所(横浜市)の阪地英男主任研究員によると、好漁場とされていた豊後水道や瀬戸内海全域で減少傾向にあるという。「取り過ぎて産卵できる個体が減った」と指摘する。また、温暖化による海水温の上昇で「より水温の低い関東や東北の海域に生息域が移った可能性がある。資源保護のためには漁獲を制限し、ゆっくり回復を待つほかない」と話す。
中国新聞社