伏線が上手すぎる…”日常”から”非日常”へと転落する脚本の巧みさとは? ドラマ『3000万』第2話レビュー
大金に狂わされる佐々木家
お金がなく生活が厳しかった頃は常にギスギスした空気が漂っていた佐々木家。だが、「3000万がある」というだけで心に余裕が生まれ、かつ罪の共有意識がそうさせるのか祐子と義光の夫婦仲は以前よりも良好に。財布の紐も緩み、佐々木家の食卓には朝から高級なマスカットが並ぶ。 宝くじで1000万円以上が当たると換金の際に銀行から大金に惑わされないための具体的なアドバイスが書かれた冊子が手渡されるというが、それくらいお金は良くも悪くも人を変えてしまうのだ。 逆もまた然り。もう生き返らないと思っていたソラが意識を取り戻し、祐子は息子の純一(味元耀大)がお金を取ったことを彼女が覚えているのではないかと不安な日々を送る。そんな中、お金で気が大きくなった義光は知り合いの音楽関係者に唆されて高いギターを購入。純一の電子ピアノが壊れて買い替えを検討している時に、この男は…。 さらには比較的高価で手入れが大変なフライパンをプレゼントしてくる義光に祐子はブチ切れ。腹が立ちすぎて、普段はスルーするようなオムライスをケチャップまみれにする義光の癖にもひとこと言ってやらなきゃ気が済まない様子がリアルでくすっと笑ってしまった。まさかケチャップと鉄のフライパンが伏線とは知らずに。
日常から非日常への転落
終盤、祐子と義光は相談の末、ソラに交渉を持ち掛けることを決める。その内容は、警察の足がつきにくい佐々木家で3000万を保管する代わりに、手数料として1000万をもらうというものだ。 義光が病院のトイレに血に見立てたケチャップ付きの札束をばら撒き、監視の警察を引きつけている間に、祐子はソラと接触。蒲池と長田が自分を拉致しようとしていることを悟ったソラは、病院から自分を逃がすことを条件に祐子の交渉を飲む。その後、2人はどうにか病院を抜け出すも、蒲池に行く手を阻まれた。 屈強な蒲池に女性の力で叶うはずもなく、あえなく蹂躙される祐子とソラ。だが、義光が返品しようと車内に放り込んだ鉄のフライパンで2人は蒲池に反撃する。祐子とソラに一発ずつ頭をフライパンで殴られた蒲池は一瞬息を吹き返すが、バランスを崩して湖へと沈んでいった。 ケチャップとフライパンはどちらも家庭で使われる“日常”のもの。だが、それは今回のように血糊や凶器として使われることもあり、“非日常”へと転じる可能性を秘めている。 そんなケチャップとフライパンの用途の変化で、今よりも少しだけ楽な生活を願った祐子が3000万に手を伸ばした結果、人殺しに加担してしまい、完全に日常からはみ出していく姿を演出した第2話。今回脚本を手がけた名嘉友美は緩急の付け所や見せ方が見事で、ぐいぐい物語に引き込まれていった。 ソラ役・森田想の鬼気迫る演技も目が離せない要因の一つ。なかでも蒲池の頭をフライパンで殴った後、自分を落ち着かせるように震える手でタバコを吸う姿があまりにリアリティがあり、こちらまで手に汗握った。そしてそれは彼女が人の心をまだ失っていないことを物語る。そんな彼女が一体なぜ、犯罪組織と関わっているのか。危険を冒してまで3000万を奪った動機も気になるところだ。 【著者プロフィール:苫とり子】 1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
苫とり子