Netflix『三体』科学監修に聞いてみた。あれは現実的にありえるの?
三質点系の惑星の見た目は?
ドラマで登場する異星人の故郷は、そんな三質点系に囚われた惑星です。 イメージ的には、地球に一番近い恒星系のケンタウルス座α星にちょっと似てますよね。 ケンタウルス座α星はたったの約4.3光年彼方にあって、しかも三重連星(α星Aとα星Bがペアになっていて、互いに約80年周期で回り合っていて、その遥か遠くにプロキシマ・ケンタウリと呼ばれるα星Cがある。α星Cは、ハビタブルゾーン内の岩の惑星を含めた5つの惑星のホスト)です。 「ドラマではこのα星で生命体が進化したという想定のもと、この惑星系を舞台として代用しています。地球からの距離を示す光年数もだいたい同じだからです」(准教授) 三質点系に囚われた惑星の存在が確認されたのは2021年のことでした。場所は地球の1800光年彼方。それは海王星によく似た巨大なガス惑星で、主星KOI-5Aの近くを5日周期で回っていました。主星KOI-5Aは近くのKOI-5Bの周りを30年周期で回ってて、5Aと5Bを取り巻くように、もっと遠くにあるKOI-5Cが400年周期で回っていたんですね。 その5年前の2016年には、安定した三質点系と惑星の存在を裏付ける根拠なるものが発表されたこともありますが、そちらは惑星と思われた物体が背景星であることが後日判明。論文が取り下げられて今に至ります。 劇中登場する異星人(「San-Ti(三体)」と呼ぶ)の住む星では、3つの惑星の運行に応じて混乱期と安定期を繰り返します。1つの太陽の周りを回ってる間は安定期。そこにもう1つの太陽が入ると、その引力で重力がどっと奪われて3つの惑星の重力場を彷徨う混乱期に入ります。 混乱期に入った惑星は、寒暖差があまりにも激しく過酷です。熱射で体が一瞬にして焼き尽くされたり、一瞬にして凍てついたり。とても生存に耐える環境ではありません。
三体の惑星に生命は存在しうるのか
人間がそんな過酷な環境に住むことになったら、混乱期と安定期にどう身体を順応させたらいいのか、まったく見当もつきません。 なんせ瞬時に100℃も気温が変わるのだから。沸点と氷点を軽く超越しちゃってますし。ドラマみたいに、体中の水分を抜いた乾物状態になって混乱期の酷暑を凌ぎ、安定期になって涼しくなったら水を被って「戻す」なんてことができるとも思えないし。 「進化の観点からは、それまでに発達した種は絶滅されて終わりでしょうね」と、やっぱりKenzie准教授もその点については言ってました。 「ただ、ドラマの中では、順応のメカニズムを発達させて進化を続ける種が出現する設定になっています」 理論的には、混乱期の軌道が生み出す大気は、高度有機体の繁殖に適してはいません。ですが、それは地球人の色眼鏡で見た場合の話であって、この広い宇宙のどこかには、炭素ベースではない生命体が存在するかもしれないし、地球と異なる環境に合わせて、身体的にも生物学的にも地球人とは異なる発達を遂げていることも考えられます。 もちろん地球にも、三体顔負けのサバイブ力の種はいます。最強生物クマムシだったら、得意の脱水仮死状態(「乾眠」)で乗り切れるかもしれませんけどね。 地球外生命体の生存に欠かせないものは水。それに異論を挟む科学者は今のところいません。惑星に水が存在するためには、暑すぎず寒すぎないハビタブルゾーン(生存可能領域、ゴルディロックスゾーン)を超えない軌道で主星を回る必要があります。三質点系では、系内にある惑星の存在からしてレア。ましてやハビタブルゾーンだけ通って、惑星が移動する可能性はもっと希薄です。 ドラマではそんな細かい話や説明はなんとなく端折ってて、映し出されるのは、VRゴーグルで人間の姿に姿かたちを変えた異星人。その生まれ故郷もVRで再現される映像だけです。本当の姿は最後まで一度も出てきません。 「これなら惑星の実像を描く必要がないので、演出にいくらでも幅を持たせられますしね」と語るKenzie准教授。 専門は量子物理学です。異星人を思い描く仕事には脳トレのような面白さもありますが、それはそれ。本業とは別と割り切っているみたい。そりゃそうか…。
satomi