なぜ日本語の歌に英語?和製英語のアクセントから、深い意味持つ本格英語へ
英語と日本語とのダブル・ミーニングで、ひとつの分岐点となったサザンオールスターズ
また、“歴史的”観点から、サザンオールスターズがひとつの分岐点になったと指摘するのは作編曲家の田辺恵二氏だ。 「僕の考えでは、もともと歌謡曲に英語が混ざる例は少なかった。ラブとかガールとかを慣用句的に使うことぐらいはあったと思うんですよ、ロンリーガールとか。それが英語の使い方という意味ではっきり新しい流れとして分かれたのがサザンだと思うんです。例外もあるでしょうが、桑田さんはギターを弾きながらまずメロ(ディー)に乗せるための適当な英語を歌いながら歌詞を乗っけていくらしい。それで、そこに合うような同じような発音の日本語を合わせる。いわゆる、ダブル・ミーニングになるわけですよね」 英語と日本語とのダブル・ミーニング(2つ以上の解釈が可能な意味づけのこと)を取り入れて、日本語の中でも縁語、掛詞など和歌における修辞技法がよく見られるという桑田の楽曲。日本語英語のような独特の歌唱法と相まって、ひとつのスタイルを築いたということだろう。
90年代以降は、英語をしっかり操れる人がカッコよく歌う日本の楽曲が登場
「90年代に入ってくると、安室奈美恵が代表格だと思いますが、いわゆる小室哲哉さん以降の曲は英語と日本語の融合みたいな感じの曲が増えました。日本語に聞こえるような英語、英語に聞こえるような日本語、みたいな感じでうまく使っていたと思うんですよ。曲に関わっていた人たちが英語ができたのと、メロディーの作りも洋楽に徹していたので、やっぱり英語の発音のほうが合うんじゃないかと」 田辺氏はさらに、90年代後半にミュージック・シーンに躍り出た宇多田ヒカルをはじめ、いくつかのパターンをあげる。 「ニューヨーク生まれの宇多田ヒカルなんかは、和製英語というより、ちゃんと英語がわかる人が歌うというスタイル。松本隆さんが作詞を手がけた松田聖子の『SWEET MEMORIES』は、全編英語バージョンもありました。その辺り、歌謡曲に英語もいいんじゃないかっていう流れも出てきたわけですよね。若いロックバンド、ONE OK ROCK(ワンオクロック)とかは本当に海外につながっているだけあって本物の英語で、それに日本語が混ざるとか。そういうパターンもある。現在のJ-POPを大きく分けると、本物の英語として成り立っているものと、発音とか語感の響きで使っているのと、その2つがありますよね。中途半端なものはなくなってきているのかもしれないですね」 宇多田といえば、2016年にリリースしたアルバム『ファントーム』では、亡くなった母・藤圭子に捧げる作品として、日本語で歌うことをテーマに決め、わずかに英語とフランス語が用いられているものの、ほぼ日本語で書かれたものにチャレンジもしている。英語堪能な宇多田が、あえて日本語の美しい響きを追求したという意味で興味深い。 「洋楽のオールディーズからの流れ、ウエスタン・カーニバルの時代にも英語の混ざる歌詞はありましたが、名詞のみなど、単純な使われ方でした。それが一時、演歌が主流になって、当然日本語が多くなった時期があった。でもその後、やっぱり海外の音楽の情報などもどんどん入るようになって、世界と距離が縮まるなかで、英語と日本語が共存するような形になってきましたよね。ロックバンドとしてはやっぱり英語がかっこいいよねって、そういうノリで英語でやっているバンドも多いですよね。パンクロックなどにはやっぱり英語が合うんじゃないか、とか」 日本語と英語は、今後もさまざまな形で共存していきそうだ。あなたは、どんなスタイルの曲がお好みだろうか。 (文・取材:志和浩司)