尾上右近が語る『ライオン・キング:ムファサ』「吹替えのお仕事は歌舞伎と似ている」
尾上右近の考える“王の条件”
実際の収録では通常の映画撮影とは違い、すでに存在している映像、キャラクターの表情や動きを観て、決められた秒数で演技をしなければならない。 「画面から影響を受けて演じないと、その気持ちにコミットできないですし、キャラクターに寄り添えません。でも収録では画面に常に数字(タイムコード)が出ていますから、どうしても数字に目がいってしまう(笑)。最初は慣れなくて、画面を観る余裕がなくて苦戦しましたね。でも、慣れてからは、キャラクターを観る、画面を観ることで気持ちがちゃんと向かっていく。それができるようになると楽しいですし、自分なりにですが、掴めた感覚はありました」 すでに存在している演技や動きに“合わせる”かたちで演技をする吹替えは、非常に高いレベルの技術を要するが、歌舞伎俳優はこの世界に映像が誕生するずっと前から、先代やすでに活動している俳優の演技をそのままコピーしたり、すでにある動きを観て、合わせながら演じて自分の色や演技を重ねてきた。 「確かにそうなんです。そのことは最初の段階で気づいていました。実際にモノにするには少し時間がかかりましたが、慣れてくると確かに似てる部分があると感じました。歌舞伎の世界ですと“すでにそこにあるもの”を踏襲することや、カタチがあるものの中に入っていくことは普通で、むしろそれに慣れすぎているために他の演技のお仕事で戸惑うぐらい。ですから、まず画があって、そこに自分が入っていって……という吹替えのお仕事は歌舞伎と似ている部分があるんです。 古典の場合ですと演出家がいない場合もありますけど、今回は監督が導いてくださいましたし、正しいジャッジをしてくださって。たくさん助けていただきました」 ムファサは兄弟の絆で結ばれたタカと共に壮大な冒険に出かける。しかし彼は孤児で、王の血を引いているのはタカの方だ。なぜ、我々が知っている王ムファサは生まれたのか? 右近は「ムファサはその考えや哲学も含めて、王になるべくしてなったのだと思う」と分析する。では、質問。時代によって変化はするが、現代において“王の条件”とは何だろう? 「そうですね……いちばん面倒なことを率先してやる人ではないですかね。でも、その姿が楽しそうに見える人 (笑)。一番しんどいことをやっているのに、苦労してなさそうに見える人じゃないでしょうか」 ムファサは無欲で、仲間のために行動し、いつしか周囲から愛されて王になっていく。これはあくまでも筆者の意見だが、ムファサが王になるべくしてなったのなら、尾上右近はムファサを演じるべくして演じたのではないだろうか。 「僕も権力に対する欲はまったくなくて、とにかく歌舞伎が好き、演じることが好きで、歌舞伎のためになるなら歌舞伎の主役もやりたいと思っています。だからその点ではムファサとなんとなくではあるんですが、重なり合うと言いますか、感じる部分はあるんです」 映画『ライオン・キング:ムファサ』 12月20日(金) 公開 (C)2024 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved. 撮影:源賀津己 ヘアメイク:Storm(Linx) スタイリスト:三島和也(Tatanca)