どこまで続く? 米中貿易戦争 日本の経験から考察する
アメリカは中国に対し、7月、8月に続き、9月24日に3度目となる追加関税措置を発動した。収まる気配の見えないこの貿易摩擦は「貿易戦争」と呼ばれる。この対立はどこまで続くのか。お互いへの貿易状況やかつて日本が経験した米国との貿易摩擦の例をみながら、岡山大学経済学部の釣雅雄教授が考察する。 【写真】トランプが中国への「為替操作国」認定見送り 日本にとって意味すること
●米国
トランプ米政権が9月24日に中国に対する第3弾の制裁関税を発動することになりました。すでに中国から米国への輸入品500億ドル分(年間総額)に25%の追加関税が課されていますが、さらに2000億ドル分に10%の追加関税がかけられることになります。加えて2019年1月には今回の10%の関税が25%へと引き上げられる予定であることもアナウンスされています。 中国からの輸入額の約半分に制裁関税がかけられることになりました。一方の中国もすでに実施している米輸入500億ドル分への25%報復関税に加えて、5~10%の追加関税をかけることを発表しました。まさに、「米中貿易戦争」という衝突状態となっています。米国は、米国企業に対する技術移転や中国企業との合弁の圧力、知的財産権侵害、米国コンピューター・ネットワークへのサイバー侵入などを関税の理由としています。 とはいえ、おそらくは中国から米国への貿易不均衡も貿易戦争の背景にあると考えられます。貿易黒字が米国にとってプラスという重商主義的な発想に基づく通商政策は、現在では否定されています。そのため、米国も公式には貿易不均衡を理由にしていないだけかもしれません。
図1は米国商務省センサス局の貿易統計(BOP)により、2015年から2017年の貿易収支及び輸入額を国別でみたものです。貿易収支をみると、米国は2017年の総額が約8000億ドルの赤字なのに対して、その46%に相当する額が中国によるものとなっています。 輸入額を国別でみると、中国からが約5000億ドルと大きな額ではあるものの、メキシコ、カナダ、日本、ドイツからの輸入額も大きくなっているのを考えると、米国にとって中国との貿易関係が他国と比べて極端に不均衡であることが分かります。すなわち、中国以外の国については米国からの輸出もある程度あるのに対して、中国からはそのバランスが輸入に偏っています。 貿易赤字によって、トランプ米大統領は米国の雇用や所得が失われていると考えているのかもしれません。けれども、国が稼ぐには生産以外の方法もあるし、(赤字・借入による)資本は将来への投資として利益をもたらすかもしれません。また、今回の追加関税対象外となったアップル製品など、米企業が生産した財も輸入品に含まれています。例えば、iPhoneが中国から輸入されると貿易赤字の要因になるかもしれません。けれども、それはアップル社のもうけとなるばかりではなく、より安価で便利な品を多くの国民が利用できるようになるという利益をもたらします。