Apple Vision Pro によるMR体験はファッション業界にどんな進化をもたらす?
ショッピングにスタイリストの提案を
Jクルー(J.Crew)は今年2月、没入型3Dショッピングのための「バーチャルクローゼット(Virtual Closet)」機能を備えたVision Pro向けアプリを発表した。なお、同アプリのダウンロード数については開示されていない。 「我々はバーチャルクローゼットとFaceTimeのシェアプレイ(SharePlay)機能を組み合わせ、Jクルー所属のスタイリストが顧客のショッピング体験をリアルタイムで共有し、サポートできる仕組みを作った」と、同社でマーケティング部門バイスプレジデントを務めるホールジー・アンダーソン氏は語る。「顧客はアプリ内でスタイリストのアドバイスを受けながらさまざまなコーディネートを試すことができる。自社の卓越したサービスとスタイリングに対する情熱は、この没入型テクノロジーと融合した。我々は今まで見てきたなかでもっとも先進的なバーチャル・クライエンテリングを提供できるようになった」。 コンピューティング/AIソリューション専門企業のスペーシャル・ダイナミックス(Spatial Dynamics)で共同CEOを務めるキャシー・ハックル氏は、Jクルーのアプリで靴を購入した感想として「Jクルーで買い物をするのは非常に楽しい」と話した。「まだ少し臨場感に欠けるとはいえ、サービス導入の初期段階では想定の範囲内だ」。 今後1年のうちにAppleが追加するとみられるVision Proの新機能の仕様に合わせ、Jクルーは同社開発スタジオのオブセス(Obsess)とともにアプリの改良を続ける予定だという。
続々とVision Pro専用コンテンツを導入
マイテレサもVision Pro向けアプリの開発に着手し、カプリ・ブルー・パリ(Capri Blue Paris)等のサイトから厳選した商品コレクションの購入体験ができるアプリを導入した。一方、e.l.fコスメティックスは商品検索とゲームを融合させたアプリを開発。またアロヨガは、自然に囲まれているような感覚が味わえる「Alo Sanctuary」空間で、セルフケア(瞑想)とショッピングを融合させたサービスを提供している。 オブセスのCEOを務めるネハ・シン氏も、スペーシャル・ダイナミックスCEOのハックル氏も、Vision Proの導入が早かったブランドが先行者利益を得るとみている。「Vision Proの仕様要求を満たしたコンテンツフォーマットをブランド各社が試験的に導入しているのは、いざiPhoneの空間認識機能が強化され、Vision Proがより安くなり、処理速度、機能、利便性が向上したときに備えるためだ」とハックル氏は言う。 また、ハックル氏はVision Proについて、ファッションブランドにとってスタイリングの面で大きな可能性を秘めるツールだと評価している。「Vision Proを利用すれば、スタイリストやデザイナーはユーザーに対して3D映像でコーディネートを提案したり、ユーザーと同じ体型・身長のバーチャルモデルに服を着せたりして、仮想空間上でそれが似合うかどうか本人に判断してもらえる」。 このほか、一部のラグジュアリーブランドでもVision Proの分野に乗り出す例が出てきた。ただし、購入体験についてはそれほど力を入れて取り組んでいるわけではないようだ。 グッチ(Gucci)は4月3日、ユーザーが自らバーチャル環境をデザインし、独自の拡張現実(以下、AR)コンテンツを楽しめるVision Pro向けアプリサービスを開始した。利用できるコンテンツには、2024年秋「GUCCI ANCORA」コレクションの3D映像のほか、2023年に就任したクリエイティブディレクターを紹介するドキュメンタリー作品「Who Is Sabato De Sarno? A Gucci Story」のAR版、秋コレクションに関するアプリ限定情報が含まれる。