松村北斗・上白石萌音主演「夜明けのすべて」原作とは大きく展開が違う映画版 上白石も「原作を読んでほしい。読んで、観て完結」
推しが演じるあの役は、原作ではどんなふうに描かれてる? ドラマや映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はあの朝ドラの黄金コンビが主演した、この映画だ! 【写真を見る】「細かい違いはあるが原作に沿っている」藤沢さんが山添くんの髪を切るシーン
■松村北斗(SixTONES)、上白石萌音・主演! 「夜明けのすべて」(バンダイナムコフィルムワークス=アスミック・エース・2024)
いやまいった。映画は原作からいろいろ改変されていて、特に「あの場面が好きだったのにカットされてたなー」という箇所がふたつあったので、それを書こうと思っていたのだ。そしたら映画のパンフレットで上白石萌音さんが、まさにその2箇所を「原作の好きなシーン」として挙げており、「映画を先に観た方にも原作を読んでほしい」と言っているのである。いや、主演俳優にそれ言われちゃったら、私がこのコラムに書くことなくなっちゃうんですけど! だから今回は休載──というわけにもいかないよね。うん。とりあえずどのシーンかは後述するとして、まずはいつも通り、原作の紹介から始めよう。 原作は瀬尾まいこの同名小説『夜明けのすべて』(水鈴社/文春文庫)。藤沢美紗は月に1度、PMS(月経前症候群)のためイライラが抑えられなくなる。そのため会社でうまくやれず大企業を退職、今は栗田金属という小さな会社で周囲の理解に助けられながら日々を送っていた。そんなある日、PMS真っ最中の美紗は、同僚の山添孝俊の些細な行動に苛立ち、怒りを爆発させてしまう。 山添もまた、転職で栗田金属に入ってきた青年だった。順風満帆の人生を送ってきたが就職後にパニック障害を発症、電車にも乗れず映画館や美容院などにも行けない。薬で発作を抑えるしかなく、人生に何の楽しみも見出せずに無気力な日々を送っていたのだ。 山添は周囲に自分のパニック障害のことを隠していたが、会社で発作を起こしてしまう。彼の事情を知った美紗は自分がPMSであることを告げ「お互いに無理せずがんばろう」と声をかけるが、山添は「PMSとパニック障害って、しんどさも苦しさもそれに伴うものもあまりに違う」と抵抗を感じる──。 物語はここからふたりが「互いの困難を完全に理解することはできなくても、ちょっと手助けすることはできる」という関係になっていく様子を描いていく。 というふうにあらすじをまとめると、ずいぶん深刻で辛い話のように思われるかもしれないが、そうではない。それが瀬尾まいこ作品のいいところだ。このふたりの穏やかでユーモラスな交流が、読者の緊張を解きほぐしてふんわり包んでくれる。そして、PMSやパニック障害のような外からではわからないしんどさを抱える人がいるということを他の人が「知る」だけで、社会は今より息がしやすくなると、じんわり伝わってくる名作なのだ。