ホクト社長が決断したのはキノコの計画減産 上場以来初の赤字から復活した理由と次を見据えた戦略とは?
キノコ生産のホクト(長野市)の水野雅義社長は、2006年の就任から18年。23年3月期連結決算は1999年の上場以来、初の赤字に転落した。背景にあるのはキノコ生産に使う培地や資材の値上がり、光熱費の高騰だ。キノコは「物価の優等生」と言われ、市場価格は安価が継続。そこで24年3月期に計画的な減産を行い、値上げにつなげて黒字に戻した。 【写真】ホクトの工場内で栽培されているエリンギ
食品包装資材の販売やキノコ栽培用瓶を製造していたホクトは、89年にキノコ生産を本格的に開始。年3千トン級の生産能力がある「きのこセンター」を毎年のように各地に新設し、生産量を拡大した。現在、センターは全国33カ所。ブナシメジ、エリンギで国内トップシェアを持ち、マイタケや「霜降りひらたけ」、シイタケなども生産する。
他社や農家も生産増強を続けたが、肝心のキノコの消費量の伸びは不十分だった。「以前はなかなか減産するなんて言えなかった」が、ここ数年で資材や光熱費が高騰。需給引き締めのために、大規模な計画減産に踏み切った。24年3月期のキノコ生産量は前期比5%減の8万5732トン。その結果、主力のブナシメジは、東京都中央卸売市場の1キロ当たり平均価格が前期より70円高い462円になった。
21年に「三重きのこセンター」(三重県多気町)を開所して以降、生産拠点の新設計画は当面ない。キノコ価格の維持・好転に向け、25年3月期も生産量を前期比で微減とする計画だ。その一方で、キノコの需要開拓に力を入れる。新型コロナ下で試食販売などのPRが難しかったが、今後は「営業活動をもう一度やっていく」と強調する。
海外事業もポイントの一つに挙げる。24年3月期は米国でも価格上昇に取り組み、海外きのこ事業は前期比20・8%増の78億8700万円。売上高全体(794億2600万円)の約10%を占める。まだ進出していない欧州を含め、欧米市場は「入り込む余地はまだまだある」とみる。3月に発表した無担保転換社債型新株予約権付社債(CB)の発行で調達する100億円のうち、45億円を海外きのこ事業の強化に活用する。
「成長が止まった会社に人は入りたくない。成長し続けなければ」。今後の成長のために「各セクションで策を練っている」という。大事にしてきたチームワークを重んじる姿勢を続けつつ、「アグレッシブ(積極的)に動きたい」。