【時論】ある共和国の自害行為=韓国
振り返れば数多くの前兆があった。どの政府でも間違いや失敗はつきものだ。重要なのは失敗を少なくしようとする努力、失政が発生した場合にはこれを素直に認めて修正しようとする姿勢だ。だが、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政府に欠如していたものがまさにこれらのことだった。不認定と不通、そして前政府と野党に対する責任転嫁が続いた。国会で通過させた法案に対して数十回も拒否権を行使し、十分な交渉や妥協を試みることはなかった。尹大統領にとって野党は最悪の犯罪集団であり反国家勢力だった。 2024年12月3日、尹大統領は平凡この上ない真夜中に突然で脈絡もなく非常戒厳を宣言した。非常戒厳の本質は「法」と「制度」を通じて独裁政治を許すことだ。憲政を中断して国民の基本権を剥奪する、共和国の生命を保護するための最後の手段としてのみ使用できる民主主義の「劇薬」だ。平和な共和国の日常を襲撃した戒厳宣言の瞬間は、大統領自身こそ自由と民主主義の最も大きな危険要素だったことを如実に表わす瞬間だった。国家権力が必要な理由はすべての人々の自由と安全を保護するためだ。だが、最も大きな力である国家権力は不正乱用の危険が今なお残る危うい手段だ。そのため憲法というものが作られた。市民一人ひとりの力は微弱であるため、権力を統制できるのは権力しかない。権力を分散させて各機関に任せて、分散した権力間に均衡と牽制(けんせい)を形成させる。このような権力の構造を詳細に決める設計図が憲法だ。政治権力が憲法を侵害することが危険な理由は、憲法が最も上位にある法だからというだけではない。これが崩れれば、われわれ皆の安全や自由が崩れるためであり、安保や外交、そして共和国の運命も風前の灯火のごとく弱いものになるためだ。 平和な時期に非常戒厳を宣言して独裁を試みた行為はそれだけで民主共和国に対する「反逆」行為だ。正常な共和国なら、すぐに職から追放して処罰しなければならない。それが共和国の常識的な自己防御体系だ。ところが不思議なことが起きている。与党の国会議員がおかしな理由で大統領に対する弾劾訴追を遮って出た。首相と与党代表は「秩序ある退陣」を前面に出して自分たちが国政を導いていくという。今後大統領は「法的な職務停止」状態ではないが、外交を含めてすべての職務が停止するという。憲法と法に定められた職務停止の方法には反対し、自分たちが自ら大統領の職務を停止させるということだ。いま大統領は欠位状態なのか? ところで憲法は大統領が欠位となった日から「60日内」に後任大統領を選挙で選ばなければならないと規定している。事故なのか? それなら公式に職務代行を開始しなければならない。 憲法の設計は思ったよりも精巧で複雑だ。想定しなかった問題が出てくることもあるだろう。緊急事態発生時、国軍統帥権は誰が持っているのか。大法官(最高裁判事)と憲法裁判官は誰が任命することができるのか。大統領が法的に職務が中断されていない状態で自身の職務を遂行しないことは憲法的に許されるはずがない。もしも口を閉じていた大統領が自身の憲法的使命を主張して職務を再び開始する場合、彼らにそれを防御する方法はあるのか。防御できないなら、すでに法的手段を講じなかった責任はどのようにして取るのか。もしも彼らが大統領を静かにさせるのなら、そのような権限は誰から与えられたものなのか。少なくとも憲法や主権者は彼らにそのような権限を付与したことがない。首相と与党代表は、近い将来、憲法を破る段階を越えて憲法を創造する段階に進入しそうな勢いだ。自分で責任の取れないようなことをやろうとしている。憲法に定められた要件に合わない非常戒厳宣言が憲政秩序の破壊であるように、憲法が定めた権力構造を恣意的に変更する行為も同様だ。 やっとの思いで守った共和国がまた再び危うい。憲法的混乱が続いている。混乱に陥った原因も、その混乱を解決する方法も自明だ。共和国を裏切った大統領は、憲法が定めた手続きと原則に沿って弾劾訴追の議決を受けるべきだ。言葉と技術の政治でこれを避けてうやむやにしようとする行為、そしてこれを許容する態度こそ共和国の自害行為だ。このように没落する共和国ではない。 キム・ジンハン/弁護士・前憲法研究官 ◇外部者執筆のコラムは中央日報の編集方針と異なる場合があります。