水原希子「それさえあれば何があっても生きていける」縛られて不自由な人生でも人間にとって大事なもの
日本でインティマシー・コーディネーターが初めて導入された作品は? と聞かれて、すぐに答えられる人はなかなかいないかもしれません。3年前に公開された水原希子さんの主演映画『彼女』(Netflix)がその作品。仕事内容どころか名前さえ知られていなかった当時の日本で、その職業を見つけ出し導入を後押ししたのが、ほかでもない主演の水原さんです。「ちょっとでもいい環境になったのなら、もう私はそれでハッピーです」と水原さんはあっけらかんとした笑顔で語りますが、「日本で初めて」を実現する裏には並々ならぬ意思があったに違いありません。そんな彼女が「チャレンジしたかった」と選んだ映画最新作『徒花ーADABANAー』。人間の命を長らえるためだけに生きるクローンの存在を通じて描かれるのは、「自分は何者か?」という誰もが一度はつきあたる問いです。 水原希子 1990年10月15日アメリカ生まれ、日本育ち。 モデルとしてキャリアを積み、ニューヨーク、ミラノ、パリのファッションウィークでも活躍。『ノルウェイの森』(10/トラン・アン・ユン監督)で役者デビュー。『進撃の巨人』(15/樋口真嗣監督)、『奥田民生になりたいボーイ出会う男すべて狂わせるガール』(17/大根仁監督)ではヒロインを演じた。『あのこは貴族』(21/岨手由貴子監督)で、第35回高崎映画祭にて最優秀助演俳優賞を受賞。女優としても存在感を放っている。
「自分のことがわからない」不安な気持ちのときに、現れた希望
映画『徒花ーADABANAー』は、「それ」と呼ばれる自身のクローンを利用した医療行為が一部の人々に提供される、どこかの時代を描いた作品です。 水原希子さん(以下、水原):出演を決めたのは、甲斐さやか監督の作品を拝見したこと。人間誰しもが持っているエグい部分が描かれていて、でも、不謹慎に聞こえるかもしれませんが、それが美しく思えてしまう危うさもあり、何かがあぶり出されてしまうような感じがあり、好きなタイプの映画を撮られる監督さんだなと。指名していただいたまほろ役については、今まで「こういう役」を演じたことがなかったし、怖いもの見たさもあって、是非チャレンジさせていただきたいなと思いました。 舞台となる医療施設は、選ばれた人々のみに持つことが許される「それ」を管理し、その人たちが万が一病気になった時は、「それ」を利用して治療に当たります。患者が自分の「それ」と会うことが許されないのは、自分とそっくりな(だからこそ治療に利用可能な)「それ」と会うことが、患者の精神的動揺につながりかねないから。水原さんが「こういう役」と語った所以はさておき、彼女が演じたまほろ役は、そうした患者の精神面をケアする臨床心理士です。 水原:実際の臨床心理士の方に取材をしアドバイスも頂いて、仕事についてはある程度理解できていたんですが、まほろという人物が抱える苦しさは、何重ものレイヤーになっているところがあって。現場では「これでいいのかな」と迷いながら、「監督がイエスと言ってくれますように」という思いで演じていました。今考えると、そういうもどかしさ、なんとも言えない思いは、ある意味ではまほろ自身と重なっていたんじゃないかなと思います。 物語は新たに施設に入ってきた患者ーー施設を運営する組織の後継者=井浦新さん演じる新次が、禁を破って自分の「それ」に会いたいと言い出すところから始まります。まほろはそのことによって、激しく揺さぶられてゆきます。 水原:まほろの中には、ずっと「自分のことがわからない」というような不安な気持ちがあったのかなと思います。そんな時に新次さんが現れる。親の作ったレールに沿って生きてきた新次さんは、対面した「それ」に、もうひとりの自分、もうひとつの人生を見たんだと思うんですよね。自分にも別の人生があったのかもしれない、と。そこに一種の希望みたいなものを見出した新次は、どんどん「それ」に惹かれてゆくんですが、それを見たまほろも自分の「それ」に会ってみたくなっちゃうんですね。「それ」に会うことで、何かが変わるんじゃないかと思ったんじゃないかなと。
水原 希子
【関連記事】
- 【つづき】自由に生きられないこと、葛藤があること。どちらが人間らしいのか
- 「メイクは子どもを落ちこぼれにするものじゃない」イガリシノブが小学生向けのメイク本で#メ育(メイク)をはじめたわけ
- それぞれの人生を肯定する物語を届けたい――「若草物語―恋する姉妹と恋せぬ私―」ドラマプロデューサー森有紗さんに聞く、現代日本版四姉妹を描く思い
- 「認知症の症状ばかり見て、母自身を見ていなかったことに反省した」。認知症の母、ダウン症の姉、酔っ払いの父と暮らす、にしおかすみこさんの“2年目”
- 山下幸輝「僕らの良さは1人じゃできないことが5人ならできること」推しを見つけたい人に新ボーイズグループ・WILD BLUEをおすすめしたいワケ