「がん再発の恐れ」も保釈認められず5か月の勾留で転移 無罪訴え亡くなった税理士遺族が語る “人質司法”の実態
“生きる権利”無視する司法
第一審で、一三さんには80万円の罰金刑が言い渡された。156日間の勾留で40万円分が差し引かれ、正式な罰金額は40万円だった。検察の求刑は実刑1年だったという。 「命かけて、(がんを)再発させられてしまった。たった40万円の罰金のために、こんなにやられたんだと思うと悔しい。それでも罪は事実ではないし、許せないと控訴しました」(よし子さん) しかし、控訴審も原判決を維持した。「上告しますか?」という弁護士からの連絡に対し、「します。お金の心配しないでいいからやってくれ」そう伝えたその日の夜、一三さんは息を引き取った。享年73歳だった。 よし子さんは、留置所と拘置所内での対応が一三さんの死期を早めたとしてこう語る。 「主人はすい臓を摘出して2年の命と言われても、徹底した治療と食事療法で生きていたんです。拘置所内でもがんの治療や検査をきちっとしてくれていれば。人質司法(※)による156日間の勾留は、私たち家族にとって間接的殺人と言っても過言ではありません。憲法で保障されている権利(生存権)が法律を扱う人たちに無視されているのです。せめて、検察をチェックする機能が裁判所にあったらと、そう思います」 ※長期間にわたり身柄を拘束し自白を迫るなど、被疑者・被告人の身体を人質にして有罪判決を獲得しようとする日本の刑事司法制度を批判する用語
認められている「適切な措置」受ける権利
国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」が報道をもとに調査したところ、昨年全国の留置施設および刑事施設内での「未決拘禁者」の死亡事例は22件に上ることがわかった。23歳の男性が、体調不良を訴えた翌日に意識不明となり病院搬送後死亡した事例などもある。 冒頭の大川原化工機・相嶋静夫さんの拘置所医療をめぐる裁判で、国は「拘禁の性質上、医療に関する患者の自己決定権はある程度制約される場合があることはやむを得ない」「必ずしも希望する通りの医療行為がされるものではない」と主張している。 しかし、留置施設における医療について、法律では「社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとする」と定められている(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第199条)。 司法は“拘置所医療”の実態をどう受け止め、判決を下すのか。注目が集まっている。
弁護士JP編集部