「がん再発の恐れ」も保釈認められず5か月の勾留で転移 無罪訴え亡くなった税理士遺族が語る “人質司法”の実態
刑務官が検察官に「この人を殺すつもりか」
検察の対応を象徴する出来事が、一三さんの「被疑者ノート」(※)に書かれていたとよし子さんは語る。 ※被疑者が取り調べの状況や内容を記録しておくために日本弁護士連合会が発行している冊子 逮捕から1週間後の10月28日のノートに、「インフルエンザで胸がいたい 40度」と書かれていた。 しかし、高熱が出ても取り調べが行われ、取り調べ中に意識不明になり倒れてしまったことや、救急車は呼ばれなかったこと、自力で歩けない一三さんを取調室から刑務官が担いでくれたこと、刑務官が検察官に対し「あなたたち、この人殺すつもりか」と言ったことなども記されていた。 よしこさんによれば被疑者ノートには、検察官から「ここ(供述調書)にサインすれば出してやる」と言われ、自白の強要が伺われる内容も書かれていたという。 「真実を曲げることは許せない人だった」(よし子さん)一三さんは、こうした強要をはねのけ続けた。しかし、同時に逮捕された被疑者が自白(よし子さんはこの自白についても強要があったのではないかと感じているという)、一三さんは起訴された。
拘置所の医師「無罪を主張してると保釈は厳しい」
一方、「適切な検査と治療」の必要性を訴え、主治医による診断書も提出した上で、よし子さんらは計7回の保釈請求を行っていた。 保釈を要求する署名も1週間で約5000人分が集まったという。 「お得意さんや地元の人が先生が悪いことするわけないと集めてくれました。命が危ないから助けてくれと。それを検察に出したんですが、無視されました」(よし子さん) 裁判所が保釈を認めた際も、検察側が「証拠隠滅の恐れあり」と控訴したといい、結局、公判が始まっても勾留は続けられた。 警察の留置所から拘置所の病棟に移された一三さん自身も、巡回の医師に何度もCT検査などがんの検査を依頼していた。しかし、被疑者ノートには、医師から「僕は(がんの)専門外なんだ。CTもここでは撮れないから、専門医に行った方がいい。でも、無罪を主張してると保釈は厳しい」と言われたことが残されていた。 また、夜中に起こる低血糖症状と意識障害など死の恐怖におびえる一三さんに対し、主治医がブドウ糖ゼリーを搬入できるように手配しても、検察が却下したという。 逮捕から約5か月後、ようやく保釈された一三さんは、逮捕時に84キロあった体重が61キロまで減っていた。肺の小結節はがん化、左大腿(だいたい)骨にも転移していた。