タクシーもトラックもバスも運転士不足で人の奪い合い! なり手を増やす鍵は「精神的な負担の軽減」にある
2024年問題によりさまざまな業界で働き手不足が深刻になる
2024年となり、いままで話題となっていた「2024年問題」が現実のものになろうとしている。時間外労働が厳しく規制されることにより、バスやタクシーなどの旅客運輸業界のみならず、さまざまな業界で働き手不足がより深刻なものになるとされている。 【写真】バスの屋根にある箱の正体とは 旅客運輸業界でもあの手この手で担い手(運転士)の募集を行っている。タクシーについてはトラック輸送業界からの転職者が目立っており、地域によっては求人申し込み者全体の4割がトラック運転士というところもあると聞く。 この話をベースにすれば、異業種からの担い手獲得というよりも、旅客そして貨物輸送業界で運転士の奪い合いという様相が色濃くなっているように見える。あくまで私見であるが、バス運転士ならば、給料はともかくとして比較的安定した就業環境で働くことができるものと考えられる。 タクシーは歩合給の比率が高いなか、アプリ配車も広く普及しているので、ひと昔前よりは経験を積むといったタイムラグなく稼げることが魅力的となっている。一方でトラック運転士は、就業環境が不安定であるし、給与水準が現状とほとんど変わらないなか労働時間が削減されれば、それは収入減少リスクが高まるものと考えられる。 「毎日家へ帰ることができ、さらに稼げる」という面では、トラック業界からタクシー業界への転職が多いのも納得である。 また、バス業界ならではの転職状況としては、いわゆる「Uターン」や「Iターン」とされる、都市部から地方部への移住希望者の応募も目立っているとのこと。 地方のバス事業者は、地元では歴史もあり、公共輸送機関を担うことになるので社会貢献的部分も強く、有力企業となっていることが多い。地元での知名度も高く、正社員登用が基本なので身分保障もしっかりしている。
利用者とのトラブルへの対策が進むバス業界
しかし、このままでは地域の高齢化及び人口減少はさらに進み、バス事業者は都市部、地方部に関係なく今後はより慢性的で深刻な働き手不足に陥ることはほぼ間違いない。 「自動運転バスが問題解決する」とされているが、業界内ではそれはかなり先のことになるというのが定説である。比較的導入しやすく、ニーズも高い過疎地域の路線から導入されることになるだろうが、全国どの街に行っても自動運転バスが当たり前のように走っている光景を見るには、まだまだ時間がかかりそうである。 さらに、バスを運転するのに必要な「第二種運転免許」の受験資格が21歳から(普通1種免許保有歴3年以上)から19歳(普通免許保有1年以上かつ特別な技能講習をうける必要あり)に引き下げられてからは、地元の高校を卒業してバス運転士として地元バス事業者へ就職する若者も少ないながら出てきており、メディアでもたびたび報じられることがある。 ただし、タクシーやバス運転士になろうとするとき、「事故」という大きなリスクが頭をよぎる。そのリスクを最大限に抑え込むためにも、たとえばトヨタJPNタクシーでは予防安全デバイスとなる「トヨタセーフティセンス」が標準装備されている。貸切(観光)バスでは自動ブレーキなどの標準装備が進むが、一般路線バスではEDSS(ドライバー異常時対応システム/異常を感じたら運転士または乗客がボタンを押すとバスが自動的に停車するシステム)が標準装備されるぐらいとなっている。 そのため、現状では広く後付け安全運転支援デバイスの装着など、リスク低減のためのさまざまなデバイスの導入も進んでいる。利用者とのトラブル対策では車内カメラの設置はいまや当たり前となっており、このような乗務中の精神的負荷低減への業界をあげての積極的な取り組みが、IターンやUターンを希望する異業種からの転職者や高校を卒業した新卒者採用を、少しずつではあるが増やしているといってもいいだろう。 バスやタクシーの求人では、いままでは二種免許取得のための養成費負担や、就業支度金、実際乗務してからの歩合(タクシー)など、「お金の話」がメインとなりがちであった。ただ、とくにバスについては、前述したような乗務中の精神的負荷低減への取り組みを強調する事業者も増えてきており、そこを重視して就職先を選ぶ人も増えてきている(家族を安心させるためという側面が大きいようだ)。 地方事業者が都市部で地元自治体と組んで、バス運転士として地元で働くことによる魅力というものをさらに強調すれば、働き手不足のスピードを鈍らせるぐらいの効果は十分に期待できるかもしれない。
小林敦志