手描きイラスト調のグラフィックが鮮烈な海外ADV『Phoenix Springs』レビュー。消えた弟が残した謎が砂漠の奇妙な集落へと導くネオ・ノワール
書類箱から出てきた保護者の死亡診断書。荒れ果てた住宅街で暇を潰す路上生活者の少年。違法レイヴの爆音が漏れ聞こえてくる、閉鎖された大学の図書館。閉じられた緊急避難用のパニックルーム。それらの点がやがて、砂漠のオアシスにある奇妙な集落“フェニックス・スプリングス”へと繋がっていく。 【記事の画像(7枚)を見る】 イギリスを拠点とするインディースタジオCalligram Studioによる『Phoenix Springs』は、美しいイラスト調のグラフィックと音響でつづられたアーティスティックなアドベンチャーゲームだ。PC/Mac/Linux配信中で、対応言語は英語のみ。価格は2300円となっている。本誌ではレビュー版をプレイしたので、その内容をご紹介しよう。 乾いたハードボイルドな独白で語られる、“消えた弟探し”の旅 『Phoenix Springs』の主人公アイリス・ドーマーは消息不明の弟レオを探すべく、わずかな手掛かりを頼りに様々な場所を訪ねていく。ポイント・アンド・クリック型のアドベンチャーゲームをベースにした謎解きゲームになっていて、アイリスは「レオはどこに住んでいたのか」、「そこで何をしていたのか」、そして「今どこにいるのか?」といった問いとともに真相に迫っていく。 レオと関係がありそうな場所を調べてやってきたのだが、解錠パネル付きのパニックルームに誰かがいるようだ……。 開発は本作のことを“ネオ・ノワール”と表現していて、物語はジャーナリストであるアイリスの独白によって語られていく。ローカライズされていないのが残念だが、乾いたハードボイルドな語り口は英語ボイスからでもひしひしと伝わってきて渋カッコいい。 これが主人公のアイリス。冒頭から「これは私が弟を見つけた夜のことだ」と倒叙っぽい言い回しでスタートするのがたまらん。 そしてそこに重なる、本作のイラスト調の手描きアニメーションで構成された画面やサウンド演出は圧倒的だ。砂漠の蜃気楼のように怪しく揺らめきながらアイリスをフェニックス・スプリングスへと導き、そしてそこで爆発する魔術的で超現実的な物語が繊細かつ力強いタッチで描かれる。 空き地に勝手に住んでる一家の少年が植物に繋がった謎のガジェットを操ってたり、怪しくて楽しい。 ヘッドバンドに繋がれた“音楽家”。フェニックス・スプリングスではそれまでに輪をかけて奇妙な人々が登場する。 アイテムの代わりに知識やトピックを使って謎を解け ところで、ポイント・アンド・クリック型のアドベンチャーゲームでは“手に入れた「鍵」アイテムを特定の「扉」に対して使用して開ける”といった謎解きをやっていくわけだけども、本作のアプローチはちょっと変わっていて、むしろ推理アドベンチャーゲームっぽい仕組みになっている。 本作では謎解き用アイテムの入ったインベントリの代わりにそれまでに知った情報や気になるトピックなどの“アイデア”がひとまとめにされていて、それを使って人に質問したり、目当ての情報を探し出していくのだ。 推理アドベンチャーのように、手がかりとなりうる情報やトピックが並んでいる。 この仕組みは、プレイヤーとしての自分の発想とシステムが上手く噛み合っている時は楽しい。新たな手掛かりを追うアイリスと謎解きをして先に進みたい自分が一体化して「この情報がこういう事に繋がってるのでは?」と、かなりいい感じに物語を追っていける。 でも探索が足りなかったりインタラクション可能なモノに気づかなかったりする時は、やっぱり従来のポイント・アンド・クリック型アドベンチャーのように詰まってしまう。総当りで片っ端からあたってみるような事になると萎えるし、没入感的にも台無しだ。本作にはそんな時のために、Webで公開されている公式ウォークスルー(攻略手順)に飛べるようにもなっている。 たとえば「手に入れた住所」を選択し、ターミナル(コンピューター)に合わせて実行すると、それがどこにあるのか検索してくれる。 詰まったらゲーム内のメニュー画面から公式が公開している攻略手順に飛べる。詰まって萎えるぐらいならさっさと先に進めたいタイプの人は迷わず使おう。 クリアーまでは3~4時間程度で、中盤から終盤にかけてはトリッキーな展開もいろいろ仕込まれていて、謎の多いカルト的なインディペンデント映画を観ているかのように楽しんだ。 あとこれは本筋の部分ではないけども、インタラクションに対してやたらと細かく反応が用意されていて、それにSteamの実績がかなりの数割り当てられているのも面白かった部分。まぁ、暗中模索で総当り気味になっている時に実績が開いたりするとイラッと来ることもあったけど……。 難点となるのは英語の部分だと思うが、あまり難解な言い回しなどは出てこないので、慣れてる人はそこまで困らないはず。ちなみに対応言語を増やす予定があったり(※)、家庭用ゲーム機版についてパブリッシャーと交渉していたりもするようなので、何かいいタイミングで日本語にも対応してくれないかなぁ、と思う次第だ。(※Kickstarterでのクラウドファンディング時点ではドイツ語・フランス語・スペイン語・イタリア語の対応が決まっていた)