「ゴミムシダマシ」にスパゲティを食べさせると腹部先端からニュッと…米国教授を驚かせた日本人昆虫学者の発見とは
この発見をまとめた論文を教授に送ると、 「ゴミダマの雌雄判別に関するあなたの論文を読んで、思わず笑ってしまいました。どのようにしてその方法を発見したのですか?この方法は、多くの節足動物の種に適用できると思います。とくに、スパゲティを研究に使ったことが気に入っています。昆虫の研究にスパゲティを使った例は、これが初めてではないでしょうか?」 とお褒めの言葉を頂戴した。 教授は、相変異を示すいわゆる「トビバッタ」ではなく、グラスホッパー(=イナゴ)を研究対象としていた。行動、形態、生理学的なテーマを幅広く研究し、フィールドワークの経験もある研究者であった。 現在は、湿地帯に生息するバッタをメインの研究対象としているが、以前はアリゾナ砂漠に生息するバッタを研究しており、砂漠の生態にも精通している稀有な存在だ。前から、彼のフィールドである湿地帯に来ないかとお誘いをいただいていた。 それから久しぶりにメールをもらい、集団産卵の写真と共に面白そうな現象に気づいたと報告したところ、興奮した様子であれこれと質問が送られてきた。ついでに拙著『孤独なバッタが群れるとき』(光文社新書)にて、教授から励ましてもらったことを紹介できた旨を伝えると、 「では、本のお返しをしたいと思います。ぜひ、イリノイ州の私のもとに訪ねてきてください。4月1日から7月30日の間に来てくれたら、フロリダのエバーグレーズにある私のフィールドにお連れします。私たちの家に泊まることもできます。私たち夫婦はお客さんを迎えるのが大好きで、いつも科学者が訪ねてきては泊めています。フロリダは暖かく、日当たりがよく、白い砂浜があるので、きっと気に入ると思います。
エバーグレーズは巨大な淡水湿地で、たくさんの鳥、ワニ、魚、カメ、そして私の主な研究対象であるラバー グラスホッパーが生息しています。しかも、ワニを食べたり、エアボートに乗ったりできます。もし、あなたが私を訪問できそうなら、ぜひご連絡ください」 との返事をもらった。 これは絶好のチャンスではないか。お邪魔したい旨を伝え、アメリカ行きの準備を進めた。 ● 日本にはいない大きくて 飛べない「ノロマ」なバッタ 海を越えて文通相手に会いに行くとか、ドラマチックである。空港でホイットマン教授がお出迎えくださった。 教授は、色んな国の留学生を引き受けた経験があり、私のつたない英語も理解してくれた。おかげでなんとか英語で会話することができた。すっかり打ち解け、教授のファーストネームのダグラスから、ダグと呼ぶことになった。日本だったら、教授を下の名前で呼ぶのは畏れ多いが、アメリカではこれが普通とのこと。 滞在中は、ダグの自宅の空き部屋を使わせてもらうことになった。緑が豊富な庭にはリスがいて、穏やかそのものだ。奥さんのキャシーは弁護士で、元々はニューヨークでとんでもない金額を稼いでいたそうだ。ダグがイリノイで職を得たため、一緒に付いてきたが、収入は激減したとのこと。それでも教授より稼いでいて、お金には困っていないという。 次の日から、さっそく大学の研究室にお邪魔する。実験室、飼育室など、研究のための装備は万全だ。ダグのグラスホッパーは、人が余裕で入れる大きさの金網のケージで飼育されていた。 幼虫は、光沢のあるシックな黒い体色に黄色の縞模様があり、淡い紅色の脚を持ち、ツウ好みの体色をしている。成虫はオレンジ色で、翅を開くと真っ赤な後翅が出現するが、体のわりに翅が貧弱で、飛ぶことはできない。