中国EV市場での苦戦で利益予想の大幅引き下げとなった日産…消費者意識の変化に取り残されていく日系自動車メーカーの行く末
日産自動車が岐路に立たされている。主要マーケットと定めていた中国での販売不振が起きているのだ。かつて中国での新車販売台数においては、トヨタやホンダと肩を並べていたが、今では見る影もなくなっている。今、中国ではとにかくEVの値下げ合戦が取り沙汰されているのだが、事情はそれほど単純ではない。EV購入における消費者意識は、ガソリン車とはまったく異なるからだ。 【図を見る】日産自動車がゴーン体制からの転換が奏功した最新の業績
日産の中国新車販売台数は4年で半減という衝撃
日産の2024年3月期の売上高は前期の2割増となる12兆6857億円、営業利益は1.5倍の5687億円だった。営業利益率は4.5%。2020年3月期、2021年3月期と2期連続の営業赤字に陥っていたが、力強く回復している。 日産はコロナ禍を迎える前の2019年4月に、ルノーから経営統合を打診されていた。業績不振が目立っていたからだ。2019年2月期の営業利益率は2.7%。当時よりも稼ぐ力は各段に上がっている。2024年3月期の業績は、ゴーン体制からの転換が奏功していることと、コロナ禍から復活していることを印象づける内容のように見える。 しかし、日産は2024年4月19日に通期業績の下方修正を発表していた。売上高は13兆円、営業利益は6200億円を予想していた。営業利益は、従来予想よりも1割近く低い着地だったのだ。 ここで鬼門となっているのが中国だ。 2023年度の新車販売台数は79万4000台。前年度比で実に24.0%も減少している。日産は2024年3月期の期首に、中国の販売台数を113万台(前期比8.1%増)と予想していた。着地は見込みを3割下回っている。経営陣の予想を遥かに超える販売不振に悩まされていることがわかる。 2019年度の日産新車販売台数は154万7000台。現在はその半分ほどだ。 トヨタとホンダで比較をすると、トヨタは堅調。ホンダは日産を追随するように減少している。
EV購入者はブランドを重視しない
中国のEV普及率は高く、自動車販売シェアの20%ほどを占めている。ヨーロッパが15%、アメリカが8%、日本が2%ほどだ。2023年の中国の自動車販売台数は3000万台を突破した。アメリカの2倍近い巨大マーケットで、EV化が猛烈に進行しているのである。その中国で日産が取り残されたという構図だ。 不思議なのは、アフターサービスや品質において絶対的な信頼性を獲得していた日系メーカーが、いとも簡単に中国のEVメーカーに取って代わられたことだ。これには、消費者意識が大きく影響している。 経営コンサルティングのマッキンゼー・アンド・カンパニーは中国の自動車に対する消費者の意識調査を行なっている(「マッキンゼー中国自動車消費者インサイト2023年版)。その調査によると、ガソリン車の購入において重視するポイントは「自分が信頼するブランド」で87%を占める。その一方で、EVは「航続距離と充電時間」がトップで56%に及んでいるのだ。 つまり、EV購入に当たっては、各メーカーが築き上げたブランドの信頼性は決定要因として大きくなく、機能性が重視されているということだ。 こうした背景もあり、中国の電気自動車市場はブランド力で売り切ることができず、各社による値引き合戦となっている。 日産は中国でSUVタイプのEV「アリア」を販売している。このモデルは航続距離が470kmで、90KW急速充電器を使用した場合の充電時間は45分。このモデルの価格を大幅に引き下げて販売しているが、現地での販売価格は400万円ほどだ。世界最大級の中国のEVメーカー、BYD初のSUVモデルである「ATTO3(Yuan Plus)」は、航続距離や充電時間はアリアとほとんど変わらないにもかかわらず、260万円ほどで販売されている。日産はコストパフォーマンスにおいてBYDに大きく水をあけられている。 しかも、日産はカルロス・ゴーン体制下で販売台数を目標に掲げ、過度な値引きを行なって利益率を下げた手痛い過去がある。中国においても、販売台数目標に引っ張られて過去の二の舞になるわけにもいかない。
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