「成瀬」シリーズの宮島未奈が「婚活」を描く! 婚活業界に飛び込んだ三文ライターの、40歳からの人生リスタート【書評】
デビュー作『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)で本屋大賞と坪田譲治文学賞を受賞し、文学シーンの最前線に躍りでた宮島未奈氏。ファン待望の新作『婚活マエストロ』(文藝春秋)が現在絶賛発売中だ。題名が示すとおり、今作のテーマは「婚活」である。
「成瀬」シリーズでは、さまざまに葛藤を持つ人びとを、愛と笑いと共感に充ちたまなざしで包み込んだ宮島氏。本作でも、そのあたたかな目で以て婚活を見つめている。 主人公は自称“三文ライター”の健人。ライターとして特に得意分野があるわけでもなく、ネットで調べた情報を切り貼りして記事を作る、いわゆる「こたつ記事」を多く手がけている。そんな自分をうっすらと卑下しつつも、現状に不満があるわけでもない。低め安定路線で生きている四十歳独身男性だ。 地元では知る人ぞ知る婚活企業「ドリーム・ハピネス・プランニング」の案件を健人は請け負うことになり、取材を兼ねて婚活パーティーに初参加。そこで抜群のマッチング率を持つ社員・鏡原さんと出会う。 彼女は、真剣に出逢いを求める男女を結びつけることを己の天職と任じている、通称“婚活マエストロ”。その佇まいに感銘を受けてしまった健人は、仕事の垣根を越えて婚活界に身を投じる――。 そこから健人の冒険の幕が上がる。65歳以上のシニア限定パーティーに、琵琶湖行きのバスツアー。いろいろな世代、いろいろな背景や動機を持つ参加者たちと接するうち、長らく凪状態だった自分の心もざわつきだす。ある参加者の女性に思いがけなく心惹かれて、久々に恋する気持ちを噛みしめるエピソードには胸を打たれる。 四十歳という健人の年齢設定が絶妙だ。まだ老いてはいないけども、さりとてもう若者ではない。成熟しきれていない、今の時代の中年の心境がこまやかに描かれている。もしかしたら、健人は作者自身の心情をどこか反映させたキャラクターなのかもしれない。 属する組織を持たずに生きていることの身軽さと、その裏あわせの心もとなさ。だから健人はなにかにつけて自分を卑下しているのだが、それは言い換えると他者の痛みや劣等感にも敏感であるということだ。 彼はどんな人に対しても上から目線になることなく(特に老人や若い女性に)、誠実に向きあう。そして「婚活」スタッフとしての才能を鏡原さんに見いだされる。 一方で、健人と同じく四十歳の鏡原さんも人知れず悩みを抱えていた。そう、マエストロとて悩むのだ。二人の距離が少しずつ縮まっていく様子が、さながら初恋もののラブストーリーみたいに初々しいのが微笑ましい。 四十歳で新しい世界に飛び込み、新しい自分を見つけていく健人。きっと健人は数多くの未成熟な中年たちの姿でもある。未熟であるからこそ、伸びしろはまだある――そんなメッセージが込められている気がする。 文=皆川ちか