始まりは“のど痛”から「人食いバクテリア」の怖さ 抗菌剤服用を途中で勝手にやめるのは「超危険」
■免疫反応で体の組織が障害 溶連菌に感染した場合、溶連菌が咽頭などの組織を直接傷つけるだけでなく、溶連菌に対して引き起こされた免疫反応が、さまざまな臓器を障害することがある。リウマチ熱や急性糸球体腎炎は、そのような免疫合併症である。 リウマチ熱は関節リウマチとはまったく別物で、溶連菌に対して反応した免疫が、本来の標的でない心臓の弁膜組織や関節も攻撃してしまい(交叉反応)、後年、心臓弁膜症や関節炎を発生させる。
急性糸球体腎炎は、溶連菌の成分と抗体が複合物を形成し、それが腎臓の糸球体という部分に沈着することによって起こる。 溶連菌に感染した場合、このような合併症を予防するために、長期間(通常は10日間)の抗菌剤の内服が推奨されている。服用しなかったり、途中で服用をやめたりするなどで溶連菌感染を放置した場合、後述するような合併症を起こす可能性がある。溶連菌感染は要注意だ。 患者の中には、溶連菌感染を繰り返す人がいる。このような人は喉が痛くなると、すぐにクリニックにやってくる。それは、「カロナールやロキソニンではなかなか治らなかった喉の痛みが、抗菌剤を飲むとぴたりと治まった(患者談)」という経験があるからだ。
事実、溶連菌感染で抗菌剤は、痛みを和らげるという意味でも有用だ。少しでも疑った場合、最寄りのクリニックを受診してほしい。 ■劇症型の致死率は30~70% 溶連菌感染は咽頭炎以外にも多様な合併症をもたらす。なかでも怖いのは壊死(えし)性筋膜炎、蜂窩織炎(ほうかしきえん)だ。 前者は筋膜の浅い部分、後者は皮下組織で溶連菌の感染が拡大する。 多くは手足から感染が始まり、急速に拡大する。感染した部位に痛みや腫れ、発熱を生じ、感染組織が壊死することもある。多臓器不全を起こして、死亡する患者が多く、致死率は30~70%とされている。
このタイプの合併症は進行が速く、重症化するため、劇症型溶連菌感染症といわれる。溶連菌の別名は「人食いバクテリア」だ。 劇症型溶連菌感染症は、1980年代半ばから欧米で報告されるようになり、わが国では1992年に千葉県旭中央病院の医師たちが最初に報告した。医師の間で認知度が高まった影響が大きいのだろうが、報告された感染者数は増加し、2019年の年間患者数は894人となる。 注目すべきは、コロナ流行後の推移だ。感染者数は一時的に減少するが、2022年から再増加し、2023年には941人(速報値)と、過去最多を記録した。