怒髪天、波乱の1年を乗り越え、全国ツアー無事完遂。結成40周年を超えてなお〈青春〉ド真ん中!
怒髪天の全国ツアー〈ザ・リローデッド TOUR 2024〉が終了。ここでは11月23日に行われたZepp Shinjuku公演の模様をレポートする。
いろいろあったけど今が最高!というメッセージの共有
今年3月を前半戦、6~7月を中盤戦、10~11月を後半戦とし、全国23ヵ所を廻った〈ザ・リローデッドTOUR 2024〉。スケジュールは昨年末から決まっていたもので、今年結成40周年となる怒髪天、コロナ禍も明けた久々の全国行脚、さぁさ陽気に参りましょう、となるはずであった。 思わぬケチが付いたのは開始直前の2月。〈40周年特別企画〉と銘打った渋谷O-EAST公演だ。多数のゲストに囲まれる中、増子は途中から体調不良を訴えてステージを降りる。後日、ベース解雇という衝撃のニュースによって不調の理由は明らかになるのだが、それでも待ったなしで始まるのがこのツアーだった。昔から七転び八起きのバンドだと知ってはいたつもりだが、この足の掬われ方は見事というか何というか。〈え……今からどうすんの?〉と思っていた人がほとんどではないだろうか。 千秋楽手前、東京、Zepp Shinjuku公演。フロア前方は観客の要望により椅子席となっていたが、よくよく見ればいるのである。椅子の背に掴まってゆっくり腰掛ける白髪の男性や、杖を持った女性の姿が。ファンはバンドの鑑というが、元気な中高年の中にもほんのり〈人生の黄昏時〉の気配が漂うフロアは、サポートメンバーに支えられている現在の怒髪天と重なるものがある。もっとも、このように考えていたのは開演直前までの話だが。 SEと同時に飛び出してくるメンバー。「よく来たっ!」と増子が叫び、「ザ・リローデッド」「情熱のストレート」「オトナノススメ」と一気にたたみかけていく。40周年のテーマソングと24年前に出た復活一発目のシングル曲、その根底に何のズレもないことに嬉しくなり、3曲目にいきなりハイライトを持ってくる景気のよさに胸がすく。ツアー中盤までと大きく違うのは、皆に心配される空気がすっかり消えていることだ。皆を引っ張る〈ロック界のお楽しみ係〉、完全復活。最初こそメンバー3人を見守る立場だったサポートベースの寺岡信芳が、今では勢いよくステップを踏み、コーラスはもちろん、「楽しんでいってね!」などとMCもこなしているのが印象的。当たり前だがバンドは生き物で、補助としての杖だと思っていたものが、棒高跳びのポールになることだってありえるのだろう。 選曲も明るい。時勢を鑑みればクレイジーとも言える増子直純イズムを放出する前半から、かけがえのない仲間たちの賛歌へ。観客ひとりひとりを指差して唄う「オレとオマエ」が代表的だが、〈ゲームオーバーじゃなかった!〉と言いながら〈旅の途中で出会う仲間たち〉と乾杯する「プレイヤーI」はまさに2024年の裏テーマのよう。さらによかったのは「欠けたパーツの唄」。目の前のファンたちに向けて〈お前をずっと探してたんだぜ〉と愛情を爆発させるナンバーである。苦い後悔や感傷はもう不要。そんな現在地を確認したうえで、私はなんだか鮮烈な驚きを味わっていた。 それは12曲目、「はじまりのブーツ」が鳴り響いた瞬間だ。上原子友康のメジャーコードが生み出すワクワク感、いきなりサビをぶつける増子直純の力強さと頼もしさ。なんというか、それは間違いなく〈青春〉と呼びたい空気だった。坂詰克彦と寺岡のリズムが加わり、4人が笑顔を交わす瞬間もまた〈青春〉そのもの。楽曲のムードがそうさせるのか、それとも100曲以上ある持ち曲の中から「はじまりのブーツ」を選ぶ心意気がこのミラクルを作っているのか。ナマの演奏を聴くとよくわかる。本当にこの人たちは、何度でも〈ここからが始まりなんだ/何度でも走り出せるさ〉を実践してきたのだと。 七転び八起きの真相がわかった気がする。悲壮感や辛気臭さをすっ飛ばして進む怒髪天は、強がっているのではなく、ただ、どんな状況であれピュアにバンドを楽しんでいる。3月からのツアーを振り返り「すごくタフな、いいバンドになったんじゃないかと思う」と語っていたのは上原子で、そこまでは異論もない。ないのだが、続けて「これから、ますますカッコよくなっていく」と目を輝かせていたのには本気で参ってしまった。年齢や状況を考えて〈このへんが限界〉と決めていては絶対に出てこない、まさに青春ド真ん中のセリフである。 最高だったのは、「カッコよくなる」宣言のあとに飛び出すのが「サスパズレ」だというオチの作り方。それまで名曲連打、グッと握る拳がすべてだったのに、めくるめく話術で笑いに収斂、寺岡も苦笑する漫談スタイルへ。ロック的にアリかナシかはさておいて、これが他のバンドにはできないオリジナルであることは間違いない。そして、カッコよさも悪さも引っくるめて成立するのが怒髪天ならば、目下のラストはこの曲しかないだろう。最新曲「エリア1020」。繰り返される〈ただいま!〉〈おかえり!〉のコール&レスポンスは、いろいろあったけど今が最高!というメッセージの共有に他ならない。この1年、乗り切れたな。メンバーの表情にはそんな達成感が確かに浮かんでいたのだった。
石井恵梨子