社説:旧ジャニーズ 説明責任を果たさねば
旧ジャニーズ事務所(SMILE―UP.、スマイルアップ)が創業者・故ジャニー喜多川氏の性加害を認め謝罪して1年余りになる。被害の全容解明、事務所による説明責任が果たされていない中、なし崩しで問題を幕引きすることは許されない。 補償を担うスマイルアップが設置した被害者救済委員会はこれまで約千人が被害を申告し、510人が補償内容に合意している。改めて空前の被害に慄(りつ)然とする。 だが、先日会見した被害者3人は「全容解明に程遠い」と指摘し、問題の風化を危惧。うつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しみ、家族らに及ぶ影響を恐れて名乗り出られない人は潜在的に多いという。 SNS(交流サイト)上での誹謗(ひぼう)中傷は続いており、昨年11月には実名で被害を告発していた男性が自死した。 旧事務所は、具体的な再発防止策を明らかにしていない。当初、新会社と切り離し、補償に特化するはずの旧事務所がファンクラブの運営を続け、音楽原盤の版権を保有していたことも分かり、批判を受けて改めた。 旧事務所は定期的な会見を開かず、説明を尽くす姿勢が見えない。こうした不誠実な態度が被害者を苦しめている面も大きいのではないか。 NHKは、旧事務所からマネジメントを引き継いだ新会社の所属タレントの番組起用を再開する方針を示した。事件発覚後も起用を続ける大手民放を含む主要局すべてで起用されることになった。 NHKは昨年9月から、新会社所属タレントの起用を見合わせていた。このタイミングでの発表は、年末の紅白歌合戦を意識したともみられ、低落の続く視聴率のてこ入れとの見方もある。 視聴率や広告収入をとれるタレントの事務所と癒着してきた放送局が、その構造的な問題を徹底的に見直したのか。依存的な体質は改善されたのか。検証は十分と言いがたい。 旧事務所が、退所した元メンバーを出演させないようテレビ局に圧力をかけた疑いも、かつて公正取引委員会が指摘している。大手芸能事務所に「忖度(そんたく)」する構造が残ったままでは、第二、第三のジャニーズが生まれかねない。 閉鎖性の強い現場で優越的な立場を悪用したハラスメントは、芸術・芸能界全般に及ぶ。フリーランスら立場の弱い人たちの人権を守る抜本的な業界改革が必要だ。