米Apple社は日本企業に「年間1億円の使用料」を支払ったが…「商標ライセンスで一攫千金」は“アリ”なのか?【一級知的財産管理技能士が解説】
商標制度の利用者の中には、本制度が掲げる“本来の目的”から外れ、金銭の収受を目的に「誰かが使いたがりそうな商標」を片っ端から出願したり、「他人の商標」を先取りするような出願をしたりする人々がいます。こうしたケースについて特許庁は注意喚起や法制度で対応していますが、そもそも「商標ライセンスで一攫千金」は現実的に可能なのでしょうか? 一級知的財産管理技能士・友利昴氏の著書『エセ商標権事件簿』(パブリブ)より一部を抜粋し、見ていきましょう。
大前提として「カネ目的の商標登録」は無効
他人が使いたがりそうなネーミングを先に商標登録して、売りつけようと考えるエセ商標権者がときどき現れるが、ことごとく失敗しているのは本書『エセ商標権事件簿』で紹介している通りである。 例えば、企業が新商品のネーミングを発表したり、海外ブランドの日本進出のニュースを見て、それらがまだ商標登録されていないことに気が付いて、自分が先に商標登録して「年100万円でどうでしょう?」などと持ちかければ、もうアウト。その時点で無効なエセ商標権だ。本来他人に帰属すべき商標を先取りして売りつけようとするなど、出願経緯が不当で取引秩序を害すると評価される商標は、公序良俗違反(商標法4条1項7号)となり、権利は取り消しとなる。または権利行使しようとしても、権利の濫用などを理由に認められない。
では、「タナボタで使用料収入」は可能か?
その一方、自ら欲張って売り込みにいかなくとも、保有している商標権について、その使用を希望する企業から「売ってくれ」と頼まれることは現実にある。例えば、アップルの「iPhone」の商標は、日本では、インターホン大手のアイホン社が、類似する商標「アイホン」を先に登録していたため、アップルは同社からライセンスを受けて使用することになったのは知られた話だ。その使用料は、最盛期で年間1億円だったといわれている。 我が身に置きかえて想像してほしい。ある日突然、米国の大企業から「アナタノ持ッテイル商標権ヲ、年間1億円デ使ワセテ下サーイ」などと言われたら、これ以上のアメリカンドリームはない。ただ商標権を持っているだけで、iPhoneが日本で販売されている限り、年間1億円もの不労所得を得ることができるのだ。超特大のタナボタである。