歩数にこだわっても、平地をただ歩いているだけではコレステロール値に与える影響は少ない。注目したい自転車の運動強度
自転車に乗る前に読む本 #2
成人は1日60分以上の歩行、筋トレは週2~3回――。先日厚生労働省が10年ぶりに身体活動・運動の目安となるガイド案をまとめたが、名古屋大学で運動生理学を研究する、髙石鉄雄氏曰く「ただ歩くだけではメタボリックシンドロームの予防効果はあまりない」という。 【図】疲労感を感じにくい屋外サイクリング
氏の最新書籍『自転車に乗る前に読む本』から不都合な真実を、一部抜粋・再構成してお届けする。
散歩では効果は出にくい
それでは、具体的にどのような有酸素運動ならば、メタボリック・シンドロームの予防につながるのでしょうか。 多くの日本人が取り組んでいる有酸素運動はウォーキングです。中高年の人ならば、健康づくりに「1日1万歩」が推奨されてきたことをご存じでしょう。 「1日1万歩」が提唱され始めたのは、肥満を原因とする血管系障害が目立ち始めた1960年代半ばのことです。1986年、週に約2000キロカロリー(1日約300キロカロリー)の運動が、さまざまな疾患による死亡率を低下させるという研究が発表され、「1日1万歩」というスローガンはさらに広まりました。 ウォーキングはメタボリック・シンドロームの予防に有効なのでしょうか。2003年に、私は大学近くの川沿いをウォーキングしている高齢者に協力していただき、ウォーキングの効果を測定しました。 調査対象は歩行習慣のある平均年齢が約70歳の男女それぞれ12名の計24名です。その平均BMIは約24で肥満とは判定されませんが、少しぽっちゃりした体型です。平均でみると歩行歴は約10年、1日に約8000歩、週5日の歩行習慣のある人たちです。 まず血液検査を行い、歩行習慣がどのくらい血液の状態に反映されているのかを調べました。空腹時の血糖値と中性脂肪の値は、エネルギーの余り具合を示しています。血糖値はメタボリック・シンドロームの基準値を2名がわずかに上回っていますが問題のないレベルで、そのほかの方たちは基準値以下です。また、中性脂肪の値は基準を大きく上回っている3名の方は問題がありますが、こちらも大半の人は基準値以下です(図3-9右上)。 この2つの数値のデータからは、歩行習慣が健康づくり、メタボリック・シンドロームの予防に一定の効果を発揮しているといえます。 次にコレステロール値を見てみましょう(図3-9中)。まず血中のコレステロールの総量を示す総コレステロールは220(mg/dL)以下が正常値ですが、歩行習慣を持つ人の半数程度の人が基準を上回っています。 コレステロールで注目すべきは、動脈硬化の原因となる悪玉であるLDLコレステロールの値です。140(mg/dL)以上は脂質異常症と診断されます。24名のうち、男性6名・女性6名と男女の半数が基準値を超えていました。歩行習慣を持つ半数の人たちが脂質異常症と診断されるレベルなのです。 HDLコレステロールについても調べました。これは、血液の通り道である血管内腔から内皮細胞を通り抜けて血管内膜に入り込んで動脈硬化を引き起こすコレステロールを、血管内腔へ連れ戻し、コレステロールが合成される肝臓へ返す働きをします。HDLコレステロールは、動脈硬化を予防する効果を持つため「善玉コレステロール」と呼ばれます。こちらは40(mg/dL)以上が基準値で、数値が高い方が動脈硬化が起きにくくなります。 歩行習慣を持つ24名のHDLコレステロールの数値は、1名を除きすべて基準値をクリアしています。ただし、半数の人の数値は同年齢の平均値と同じレベルでした。平均値には運動習慣のない人たちの数値も反映されています。つまり、歩行習慣を持つ人の半数は、HDLコレステロールの数値が何も運動していない人と変わらないのです。 動脈硬化に関係するLDLやHDLのコレステロール値をみると、歩行習慣による健康づくり、メタボリック・シンドローム予防の効果が十分に認められない人が半数もいることになります。