有権者数9億6800万人…! 世界最大規模、5年に一度の「インド総選挙」でモディ首相が掲げる「公約」の中身
「ヒンドゥ至上主義」を前面に出した政治
それから10年、モディ首相は頗るパワフルなリーダーに成長した。その点は、2012年11月に中国共産党総書記になった習近平主席を髣髴させる。2000年にロシアの大統領になったウラジーミル・プーチン氏や、2014年にトルコの大統領になったレジェップ・エルドアン氏らもその部類だ。 モディ首相は、5年前に2期目に入ってから、にわかに「ヒンドゥ至上主義」を前面に出した政治を推し進めるようになった。インドは人口の約8割がヒンドゥ教徒なのだから、ナショナル・アイデンティティを強調することは、長期安定政権を目指す戦略としては正しい(約2億人いると言われるイスラム教徒には逆境だが)。 そもそも、BJPという政党が、「ヒンドゥ至上主義」を掲げる政党である。モディ首相も、それまで地元クジャラート州の首相時代にやってきたことを、全国に押し広げているという感覚なのだろう。 ただ、時としてモディ首相の「ヒンドゥ至上主義」に驚かされることもあった。例えば過去1年で見ても、昨年9月9日~10日にニューデリーで開いたG20(主要国・地域)サミットで、インドの国名を、「イギリスの植民地時代の名称である」として、ヒンドゥ式の「バーラト」(Bharat)に代えてしまった。 もう一つは、今年1月24日、ヒンドゥ教のビシュヌ神の化身であるラーマの誕生の地であるウッタル・プラデーシュ州アヨーディヤに、巨大かつ絢爛豪華な「ラーマ寺院」を完成させてしまったことだ。完成式典(ラーマ神像を寺院に安置する儀式)にはモディ首相が出席し、まるで巫女のような大仰な儀式を執り行っていた。 モディ氏がそもそもインドの首相になれたのは、地元クジャラート州を経済発展させた実績が大きかった。そのためモディ政権の片翼が「ヒンドゥ至上主義」であるとするなら、もう片方の翼は経済発展である。その点、この10年の経済発展は、おおむね評価されている。 2022年、インドはついにかつての宗主国だったイギリスを抜いて、世界第5位の経済大国に浮上した。ある朝、NHKの国際ニュースでインドのテレビ局の放送を見ていたら、女性アナウンサーが小躍りして、このニュースを伝えていた。ちなみに、2022年10月25日、イギリスの首相に初めて、インド系のリシ・スナク財務相が就任した時も同様だった。 このペースで経済成長すれば、来年には日本を抜いて世界4位となり、2027年にドイツを抜いて世界3位の経済大国にのし上がる。昨年も7.2%の経済成長を果たしており、それは十分可能だろう。そうなると世界経済はいよいよ、アメリカ、中国、インドの「3強時代」となる。 中でも、人口ピラミッドが最も理想的なのがインドである。逆に中国は、約35年に及んだ「一人っ子政策」が祟(たた)って、いびつな人口ピラミッドとなっている。そのため人口統計的に言えば、最も将来性があるのはインドで、悲観的に思われるのは中国だ。そのあたりの中印比較に興味がある方は、拙著『未来の中国年表』(講談社現代新書、2018年)を参照いただきたい。