『フェルマーの料理』高橋文哉&志尊淳の気迫ある演技を振り返る 岳と海の“共通点”も
姿を消した海(志尊淳)とついに再会を果たすことができた岳(高橋文哉)。最終回を目前に『フェルマーの料理』(TBS系)が最高の盛り上がりを見せている。レストラン「K」での仲間たちとの日々、数々の素晴らしい料理、そして急展開を迎えた岳の変化。中でも、高橋文哉と志尊淳の芝居は鬼気迫るものがあった。今回は岳と海それぞれのキャラクターの共通点と、それを表現した高橋と志尊の魅力について紐解いていきたい。 『フェルマーの料理』ではW主演を務めた高橋と志尊。高橋は『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日系)の主人公・飛電或人役で地上波ドラマデビューを果たし、『最愛』(TBS系)の朝宮優役、『君の花になる』(TBS系)の佐神弾役で一気に知名度を上げた。かわいらしいルックスながら、卓越した演技力で影のある役や、少しとっつきにくいキャラクターを演じることも多かった。今回の『フェルマーの料理』では、人懐こい笑顔と、“好き”をとことん追求する姿が印象的な北田岳を演じた。そして第9話での高橋は、それまでと全く違った顔を見せることで物語を大きく動かすことになる。 【写真】第1話で熱い握手を交わした高橋文哉&志尊淳 一方の志尊は、ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズンで向日岳人役を演じ、俳優デビュー。そして、『烈車戦隊トッキュウジャー』(テレビ朝日系)では、主人公のライト役を演じており、高橋同様にヒーロー役の経験も。数々の作品で活躍する中、2023年も朝ドラ『らんまん』(NHK総合)の竹雄役や『ミステリと言う勿れ 特別編』(フジテレビ系)の相良レン役で印象深い姿を残してくれた。 また、12月14日に配信がスタートしたNetflixシリーズ『幽☆遊☆白書』での蔵馬役からもその表現力の高さが窺える。『女子的生活』(NHK総合)や『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)での女装姿の美しさや、『Heaven? ~ご苦楽レストラン~』(TBS系)での底抜けに明るいキャラクター、また『らんまん』での真面目で筋の通った役まで、その振り幅は多岐に渡る。『フェルマーの料理』では若き天才シェフ・朝倉海を演じ、並外れた才能を有する人間だけが持つ“気迫”を見せてくれた。 『フェルマーの料理』の海と岳には、それぞれの背景や経歴の違いがある。だが、2人に共通するのは「孤高」を極めたことだろう。岳に「孤高」と書いたコースターを渡した海は、ひと足先にその闇の中を経験していた。心から尊敬する人がいながら突然その人に姿を消されることになる上、自身の身に病が降りかかり料理人として大切な味覚さえ失いかけていたのだ。自分が頂点であるがゆえに誰の背中を追うこともできず、自分自身と向き合いながら模索し続ける苦しみと、そこを抜け出すまでの極限の世界こそが「孤高」なのだ。 海がこの言葉を岳に送ったのは、自分がいなくても「K」を任せられる料理人を育てたかったという狙いもあったのだろう。第9話では、岳が神に挑み続け、なりふりかまわず料理を極めようとする中で、海には海の目指す領域があったことが明かされている。「孤高」を知る2人が最後に手を取り合うロマンに胸が熱くなった。 そんな物語の中で、2人の俳優が見せた気迫はやはりドラマ最大の見どころとも言えよう。物語中盤までの岳は、暖かく柔和な人柄。誰よりも調理場の空気を重んじ、他のスタッフとも積極的に交流してきた。何事にもリスペクトを持ち、ひたむきに走れる人物でもある。そんな岳が大きく変貌し、「孤高」に蝕まれていく姿は痛ましかった。高橋は、取り憑かれたかのような狂気を細やかな表情と声色でつぶさに表現し、「K」が崩壊するまでの様子を生々しく見せてくれた。 もう一方の海もまた、気迫と狂気の中で料理の道を極めてきたキャラクターだ。志尊の表現する勢いは高橋のそれとはまた違い、長いトンネルを1人静かに駆け抜けてきたかのような迷いのなさが感じられる。穏やかさとストイックさが同居した奇妙な調和が不穏な雰囲気を醸し、ドラマ全体にいい緊張感を与えていたようにも感じた。 いよいよ最終回を迎える『フェルマーの料理』。2人は再び「K」の厨房に立てるのだろうか。岳と海の活躍を最後までしっかりと見届けなければならない。
Nana Numoto