「敵味方を分ける」靖国神社に集団参拝した陸上自衛隊幹部の意識
「自衛官が参拝するのは当たり前」
「靖国に参拝して、何が悪いんだ」と言う人もいます。毎日新聞の報道翌日には産経新聞に、自民党の山田宏参院議員が「国のために尊い命をささげられた英霊を、自衛官が参拝するのは当たり前だ」と書いています。 そして「現在の日本の安全保障環境に合わせて、自衛官の靖国参拝のあり方も他国の軍隊のあり方と同様に国際標準にすべきだろう。そして現在の日本の安全保障環境に合わせて自衛隊自衛官の靖国参拝のあり方も、他国の軍隊のあり方と同様に国際標準にすべきだろう」という主張を寄せていました。 陸自幹部らの靖国参拝巡り「時代遅れの通達こそ見直すべき」自民・山田宏氏(産経新聞1月12日ネット版) しかし先に述べた通り、靖国神社は単なる宗教団体ではないということ、戦争で亡くなった人を祀るのに本当にこの神社がふさわしいのかという問題を根底に抱えています。
戊辰の戦い「賊軍」の側にいた私
私自身のことを言うと、関東の生まれなので、戊辰戦争の「賊軍」なんです。靖国は、戊辰戦争で亡くなった官軍を祀る神社なので、西郷隆盛はもともと官軍でしたが、亡くなる時は西南戦争で国に対して弓を引いた側、すなわち賊軍の大将であるので祀られていません。 私の「祖父の祖父」が遺した日記を読んでいたら、明治維新から20年も経っているのに、「維新(一新)」という言葉はひとつも使われていませんでした。代わりに「御公儀瓦解の折」と書いていました。つまり江戸幕府側だった、ということです。 小学生の僕は維新の志士たちが好きで、歴史に興味を持つようになったのですが、日本史学を勉強していた大学生になってこの日記を読み、「やられた側だったんだ」とはっきり認識しました。 靖国神社は、国民の統合にならないのではないでしょうか。それを無理に明治国家の統合の象徴としようとしたのです。軍国主義の破綻=大日本帝国の滅亡とともに、靖国神社の果たした役割も非常に問題視されました。
参拝した自衛隊幹部の意識
その場所に自衛隊幹部が集団で参拝する…。自衛官の中に「もういいんじゃないか」と思っている方々が多くなっているのかもしれません。そして「もし報じられたとしても、それはそれでいい」という、何となく覚悟みたいなものも感じるのです。 自衛隊は、戦前からの帝国陸軍・海軍の流れを引いて、国を滅ぼしてしまった軍国主義に対する国民の強い反発を受けていましたから、非常に自重していました。それが、「集団として参拝をする」さらに「報じられても仕方がない」、いやむしろ「構わない」という感じもちょっとしています。 だから、もしかすると50年後の日本史の年表には載っているのではないか、という気がしたのです。私たちが報じている日々のニュースの中でも、ちょっと質の違うものなのじゃないか、とも思いました。 「私的な行事の計画を行政文書で定めることはないはずで、参拝のスケジュールなどを行政文書で細かく定めている以上、陸自の組織として参拝を行ったものとみざるを得ない」という識者のコメントも、朝刊には載っていました(田近肇・近畿大教授、毎日新聞1月16日) もちろん信教の自由はありますが、「組織として動いたのではないか」ということについて防衛省がどう調査するのか、注目しておきたいと思います。
神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。報道部長、ドキュメンタリーエグゼクティブプロデューサーなどを経て現職。近著に、ラジオ『SCRATCH差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』の制作過程を詳述した『ドキュメンタリーの現在九州で足もとを掘る』(共著、石風社)がある。ドキュメンタリーの最新作は、80分の長編『リリアンの揺りかご』(2023年12月放送)。