亡くなった祖父「血がつながっていなかった」…もめにもめた遺産分割協議 行政書士指摘、遺言書あれば問題なく
祖父が60代で亡くなった。「本当の家族で、血がつながっていると思っていた。それが違った…」。綾子さん(50代、仮名)=福井県内=は中学生時代の出来事を振り返る。 幼い頃から祖父と思っていた男性は、祖母とは再婚だった。前妻との間に子どもはおらず、法定相続人は妻である祖母と、男性のきょうだいだった。 男性が残した最も大きな資産は、祖母と住んでいた自宅だった。男性のきょうだいの一人が「家をよこせ」と言い出し、遺産分割協議はもめにもめた。 綾子さんは「中学生で詳しいことは分からなかったが、私の母親も祖母も相続のことで相当悩んでいた。祖母は『家から追い出されるかもしれない』と繰り返し、心労で倒れた」。 遺言や相続に関する相談に応じる「安心ゆいごんの会」を立ち上げた行政書士の小川真紀さん(55)=福井市=は「男性が『財産全てを妻に相続させる』という遺言書を残していれば、何の問題もなかった」と指摘する。 2020年に、配偶者が自宅に一定期間または生涯住むことができる「配偶者居住権」を規定した改正民法が施行された。所有権とは別に自宅建物に居住権を登記できるようになった。小川さんは「配偶者に配慮した法改正といえるが、遺言がなければ遺産分割協議が必要なのに変わりはない。注意が必要」と話す。 ■ ■ ■ 家族の死によって、残された家族が新たな事実を知ることは珍しくない。父を亡くした息子から、相続に関する相談を受けたある行政書士が父の戸籍を取り寄せたところ、母とは再婚で、前妻との間に子どもがいることが分かった。その事実を息子に伝えると、「まさか…」と絶句した。 父の遺産に関しては、前妻の子どもも法定相続人となることから、行政書士は「息子に父の全財産を相続させる」という遺産分割協議書を作成し、前妻の子どもに同意を得たという。 × × × 福井県内でも単身高齢世帯が増える中、遺言への関心が高まっている。遺言を書き残した人たちを通し、家族の形や社会の現状を見つめる。
福井新聞社