MCUから最恐ホラー、「ONE PIECE」まで!唯一無二の“クセ顔俳優”デヴィッド・ダストマルチャンって?
スラッと伸びた鼻筋とクッキリとしたタレ目から放たれる憂いのある眼差し――名前は知らなくとも、独特のルックスにピンとくる人も多いことだろう。棺桶のアンバサダーに抜擢されるのも納得(?)のダークな雰囲気を纏う男の名は、デヴィッド・ダストマルチャン。 【写真を見る】『アントマン』『スースク』『悪魔と夜ふかし』…デヴィッド・ダストマルチャンのキャリアを振り返る 近年、数々の映画でインパクトを放ってきた気になる脇役だが、主演作『悪魔と夜ふかし』(公開中)を機に、彼のキャリアを振り返っていきたい。 ■抜群のインパクトを残した『ダークナイト』で映画のキャリアをスタート! 2000年ごろに俳優人生をスタートさせ、舞台を中心に活動していたダストマルチャンは薬物中毒や車中生活も経験する苦労人だったが、不遇のキャリアに転機が訪れる。それが初の映画出演となったクリストファー・ノーラン監督作『ダークナイト』(08)だ。 本作ではジョーカーに心酔し共にゴッサム市長の暗殺を試みるパラノイア患者トーマス・シフを演じ、ハービー・デント検事(アーロン・エッカート)からの脅しに不気味な笑みと涙を浮かべながら命乞いをする迫真の演技を披露。ほとんどセリフもなく出演時間もわずかながら大きな存在感を示した。 なお久しぶりのノーラン監督作品となった『オッペンハイマー』(23)では、オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)をロシアのスパイ容疑で告発する重要なキャラクター、ウィリアム・ボーデン役で出演しており、15年で大きく出世したことがわかる。 ■マーベル&DC、数々のアメコミ作品で存在感を発揮 DC映画でキャリアの本格的なスタートを切ったダストマルチャンは、その後も多くのアメコミ映画に出演。その1つがMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の『アントマン』(15)だ。アントマンことスコット・ラング(ポール・ラッド)の活躍を描く本作で演じたのは、スコットと一緒に窃盗を働く仲間の1人でハッキングと電気系統の達人、カート。 5年間刑務所に入っていたというただならぬ雰囲気を漂わせる男を仏頂面で演じると、窃盗の知識を逆手に取りセキュリティ会社を仲間たちと共に設立した続編『アントマン&ワスプ』(18)では、幽霊のように物質をすり抜ける謎の存在“ゴースト”について「バーバ・ヤーガ(魔女)だ」と不気味なトーンで話すなど、持ち味を生かした演技で笑いを誘った。 『アントマン』では端役に過ぎなかったが、DCの『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(21)では、決死部隊の一員、ポルカドットマンに抜擢。陰気な性格だが、“水玉模様男”という名前通り、破壊力のある水玉を敵にぶつけて殺す危険人物で、伏し目がちな表情やボソボソとしたしゃべり方に持ち前のダークな雰囲気も相まったまさにハマり役。 研究者の母親によって無理やり能力を植え付けられた悲しいトラウマを抱えるキャラクターが、母への復讐心を糧にヒーロー的な活躍を見せて喜びを爆発させる様を多彩な表情で好演し、クセの強いキャラクターに愛らしさをもたらした。 ちなみにDCのドラマ「GOTHAM/ゴッサム」にも出演し、ダークホースコミックスの「Count Crowley」では作家も務めるなどアメコミとはなにかと所縁が深いようだ。 ■ホラーフリークな一面など自身の人生が反映された『悪魔と夜ふかし』 このほかにも『プリズナーズ』(13)での不審者役を皮切りに、『ブレードランナー 2049』(17)、ハルコンネン家の側近を演じた『DUNE/デューン 砂の惑星』(21)といったドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作品では常連に。また近年は『ブギーマン』(23)、『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』(23)といったホラー作品で物語に不穏な感じをもたらす“ナイスな顔”として引っ張りだことなったダストマルチャン。 俳優業の傍ら、自身のドラッグ中毒経験を基にした主演作『Animals(原題)』(14)や『All Creatures Here Below(原題)』(18)での脚本業やプロデューサー業にも手を広げており、今回の『悪魔と夜ふかし』では主演に加えて、製作総指揮も担当している。 1970年代に起こったテレビ史上最悪の放送事故が収録されたマスターテープが発見された――そんな興味をそそる触れ込みの『悪魔と夜ふかし』は、怪異が次々と巻き起こる深夜番組の全貌を、舞台裏の映像を交えながら映しだしていくオーストラリア産ファウンド・フッテージ・ホラー。 深夜のトークショー「ナイト・オウルズ」の司会者ジャック・デルロイ(ダストマルチャン)は軽妙なトークと人懐っこいキャラクターで人気を博しているが、どうしても時間帯視聴率1位を獲れず低迷の一途をたどっていた。追い討ちをかけるように最愛の妻を肺癌で亡くして以降、番組打ち切りの危機にまで追い込まれたジャックだったが、起死回生の一手として悪魔憑きの少女を生放送に出演させ、悪魔を呼びだすオカルトショーを実施。するとスタジオでは次々と超常現象が巻き起こる事態に…。 ダストマルチャンはホラー映画雑誌「ファンゴリア」でホラーホストについての記事を執筆するほどホストという役割への理解が深く、次々とジョークを飛ばす軽妙なトークや大袈裟な仕草はまさに欧米圏のテレビ番組の司会そのもの。コリン&キャメロン・ケアンズ監督曰く、ゲストに本気でインタビューをして、5~10分ほどアドリブで話し続けていたというから驚きだ。 そんなテレビでの姿とは反対に負け犬のイメージがつく焦りから徐々に狂っていくニューロティックな一面など、テレビ業界で成功するため狂気に突き動かされるジャックの人物像を怪演。最愛の妻を失った悲しみをかき消すように仕事にのめり込む野心家な顔からは不安や悲しみ、恐怖と格闘する複雑な人物像が浮かび上がってくる。狡猾な悪魔に魅入られた結果招いてしまう予想だにしなかった事態に憔悴しきる様子まで嬉々として演じている。 海外のインタビューで「本作に参加する際に『これこそずっと自分が参加したかった映画のような気がする』と思った」と語ったダストマルチャン。保守的な地域の信心深い家庭で育ち、子どもの頃は悪魔という存在を身近に感じていたという生い立ちからドラッグという悪魔に苦しめられた経験、ジャック同様に欲しいものを手に入れるためならなんでも犠牲にすると誓った下積み時代まで、本作は彼の人生と通じるところも多く、それだけに思い入れも強いようだ。 ちなみにダストマルチャンは、幼い頃からアニメや映画、歴史といった日本の文化に触れ、高校時代には日本語を勉強し、自身が手掛けたコミック「Knights Vs. Samurai」に侍を登場させるほどのジャパノフィリア(日本びいき)。 家族ぐるみでファンだという「ONE PIECE」の実写ドラマ版では、秘密犯罪会社バロックワークスのエージェント、Mr.3役を演じることも決まっており、今後ますますの日本人にも馴染み深い存在となっていくだろう。まずは、公開中の『悪魔と夜ふかし』で唯一無二の魅力を堪能してみてほしい。 文/サンクレイオ翼