政権崩壊シリアで「大勝利」収めたトルコ 影響力拡大、その先に
トルコのエルドアン政権がシリアへの影響力を強めようとしている。トルコは、アサド政権を倒した旧反体制派武装組織の一部を支援してきたほか、暫定政権の主体となった「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)とも一定の関係を持つとされる。今後の狙いはどこにあるのか。 【写真】シリア・アサド政権崩壊 反体制派が首都制圧 「トルコはアサド政権崩壊で大勝利した」。米紙ニューヨーク・タイムズは端的にこう指摘する。 2011年に勃発したシリア内戦で、トルコは反体制派側を支援してきた。国境の管理を通じて、反体制派が陣取ったシリア北西部イドリブ県への人道支援や貿易の調整も実施。さらに、トルコ軍が17年からイドリブ県内に駐留し、この地を拠点とするHTSなどを政府軍の攻撃から守った。 トルコは、国際テロ組織アルカイダ系組織を前身とするHTSをテロ組織に指定しつつ、実際には間接的に支援してきたと言える。 エルドアン政権は近年、内戦で優勢だったアサド政権との関係改善を模索する時期もあったが、今年11月に反体制派の大規模な攻勢が始まると旗幟(きし)を鮮明にした。エルドアン大統領は「(反体制派の進攻が)問題なく続くよう願う」と述べ、後押しする態度を明示していた。 ◇安保と難民帰還が狙いか 「トルコはシリア新政権による国家形成と改憲草案の作成を支援する」。エルドアン氏は12月20日、記者団にこう強調した。 アサド政権の崩壊以来、トルコはシリアの暫定政権との関係強化を進めている。14日には自国の在シリア大使館を再開した。トルコのギュレル国防相は15日に「要請があれば、必要な軍事支援を提供する用意がある」と述べ、安全保障分野での協力にも前向きな姿勢を見せた。 トルコがシリアに積極的に関わる目的は何か。 その一つは、両国の国境沿いの安全保障の強化だ。トルコは、自国からの分離独立を主張する「クルド労働者党」(PKK)を非合法武装組織とみなし、シリア北東部のクルド人主体の武装組織「シリア民主軍」(SDF)とつながりがあると見る。そのため、アサド政権崩壊後、トルコが支援する武装組織「シリア国民軍」(SNA)はSDFへの攻撃を激化している。 トルコに暮らす300万人以上のシリア難民を巡る事情もある。トルコはシリアでの内戦勃発以来、国を逃れた人々をイスラム教徒の同胞として受け入れてきた。しかし、トルコ経済の低迷が続く中、難民を負担とみて排斥を求める動きは強まった。シリアが安定すれば、難民の帰還につながるメリットもある。 ◇各国の介入で混迷の恐れも ただ、トルコの思惑通りに行くかは不透明だ。トルコが敵視するSDFは、過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討にもあたり、米国の支援を受けている。SDFが弱体化すれば、ISの伸長を許し、一帯が不安定化する恐れもある。また、シリア南部に軍を展開するイスラエルは、トルコの影響力増大を警戒してクルド人への支援を検討しているとされている。 シリアの暫定政権は、主要閣僚を指名するなど新体制構築の作業を進めている。そうした中、トルコを含む各国が自国に都合の良い勢力に肩入れすれば、シリアは混迷に陥る可能性がある。【エルサレム松岡大地】