収穫を感謝する「加薬うどん」 美智子さまと雅子さま夫妻で交わす大切な重箱
11月23日は国民の祝日「勤労感謝の日」。この日は戦前までは、その年の収穫を神々に感謝する大祭日「新嘗祭(にいなめさい)」だった。五穀豊穣を感謝し、国の繁栄と国民の幸せを祈る新嘗祭は、宮中で行われる祭祀の中でもっとも重要なものとされている。祭祀は夜行われる。天皇陛下は夕刻から深夜まで祭殿にこもって、祈願されるのである。「新嘗祭」などの祭儀が終了するまでのお長夜をお過ごしになるときに、天皇陛下(今の上皇陛下)と美智子さま、皇太子殿下(今の天皇陛下)と雅子さまご夫妻が、お互いの元にお届けになるのが「加薬(かやく)うどん」であった。今回は、国民の豊かな食を祈られる天皇家の物語である。 【画像】天皇、皇后両陛下、上皇ご夫妻
国の農業の奨励のため、天皇陛下自らが稲を育て収穫する
日本の農耕文化の中心は、稲作である。昭和2年、昭和天皇はこの日本人にとってもっとも大切な食べ物である米を、皇居内の水田で育てられ始めた。以来、天皇陛下が稲を自らの手でお育てになる「御親栽」は、農業の奨励のために、昭和天皇から上皇陛下、令和の天皇陛下に受け継がれている。 2024年5月14日、天皇陛下は皇居内の生物学研究所脇の水田で田植えをされた。植えられたのは、うるち米の「二ホンマサリ」と、もち米の「マンゲツモチ」の苗である。午前11時ごろに長靴を履いておよそ240平方メートルの水田に入られた陛下は、4月にご自分で種もみを蒔き、15~20センチメートルに育った苗をあわせて20株植えられた。 ことのほか暑い夏や豪雨といった厳しい天候にもかかわらず、稲穂は美しくたわわに育った。9月4日になると、稲刈りが行われた。午後3時半ごろから、天皇陛下は長靴を履いて田んぼに入り、鎌を使って20株の稲を刈り取られた。この時収穫された米は、11月に行われる「新嘗祭」などで使われるのだ。陛下は慣れた手つきで稲を刈り取られ、たっぷり実った稲穂を見て微笑まれた。
五穀豊穣と国民の幸せを祈願される祭祀「新嘗祭」は夜に行われる
11月23日になると、「新嘗祭」行われる。これは宮中でのもっとも重要な祭祀とされる。宮中三殿の西につながる神嘉殿において、天皇陛下がその年にできた新穀を皇祖や神々にお供えされ、五穀の豊穣を感謝されるのである。食は国民を支える一番大切なもの。その恵みにお礼を述べられるのだ。そして、国の繁栄と国民の幸せを祈願されたのちに、陛下もお供え物を召し上がる。 「新嘗祭」には、陛下が栽培されたご新穀もお供えになる。陛下が種もみを蒔かれ田植えをし、刈り取られた稲は、宮中祭祀のうち11月23日の「新嘗祭」、2月17日の「祈年祭」でお供えになる。また、皇室の祖先神である天照大御神をお祀りする伊勢の神宮で10月中旬に行われる「神嘗祭(かんなめさい)」では、根のついたままの稲穂をご神前にお供えされる。 宮中三殿では、年間に約60近くの祭祀が行われている。そのうち、天皇陛下がお出ましになる祭祀は、20回にも及ぶ。宮中祭祀は、通常夜に行われる。宮中祭祀には、身を清める潔斎や、祭服への着替えでも多くの時間を必要とする。こうしたお姿は、地方へのお出ましなどのご公務として公表される日程からは、わからない。陛下をはじめとする皇室の方々は、国民が知らないところで、人々のために夜を徹して祈り続けられているのだ。