【漫画家に聞く】“負けなし”の小学生ピアニスト、合唱大会の伴奏に選ばれなかった理由はーー表現者の葛藤描いたSNS漫画に感動
表現で最も大切なのは心を込めること。それを見失ったピアニストの小学生が抱える葛藤と解放を描いた漫画『女神とピアニスト』は、大人が読んでも考えさせられる。 表現者の葛藤描いたSNS漫画『女神とピアニスト』) 作者は実際に学校現場で働きながら制作しているという、なかのさん(@nakanocchi_Ex)さん。彼女はどんな視点で子どもの世界を見つめ、作品に落とし込んでいるのだろう。本作の制作について話を聞いた。(小池直也) ――制作の経緯から教えてください。 なかの:賞レースのために、担当編集さんについていただいて描いた初めての作品です。でも入賞を逃したので、許可を得て投稿しました。 ――着想はどこから? なかの:もともと趣味で描いていた漫画の番外編がベースになっているのですが、最初は全然違う内容で何を伝えたいのかわからず、ボツになったんですよ。そこから再び取り組んでいるうちに、自分の漫画に対する態度を見直そうと思って。それが作品にもは反映されたのかなと思います。 もともと楽しく描いていたのに苦しくなることは、何にでもあると思うんですよ。でも一番大切なのは他人軸ではなく自分の気持ち。特に漫画はアイデンティティですから、自分が伝えたい内容がないと意味がないなと。描き終わってから「本作の主人公は自分自身だったな」と感じました。 ――なぜ音楽をモチーフにされたのでしょう。 なかの:もともとは「ピアノ弾いてる男の子ってカッコいいよな」という軽い気持ちだったんですよ(笑)。あと普段はティーンエイジャーの物語を描くことが多いので、たまには小学生もいいかなと。私自身もピアノを4年、大学時代はコントラバスをマンドリンのオーケストラで演奏していました。それもあって、いつか音楽を主題にした漫画を描きたかったのもありますね。 ――作画について意識したことは? なかの:実は今、学校関係の仕事に就いているんです。だから子どもの世界を描くことが自分に適していると思っていました。描くのに大変だったのは教室。掲示物などの細かい点もこだわって描いています。あとはキラキラ輝いて見えるように、と頑張って描いたピアノの描写の評判がよくて嬉しかったですね。 ――Noteの制作後記によればタイトルは熊谷幸子「女神とピアニスト」からの引用だとか。これについても聞きたいです。 なかの:Apple MusicやYouTubeで聴いてる音楽から着想を得られないかな、と思って探していたら出てきたんです。この漫画の雰囲気にも合っていたので拝借しました。もともと熊谷さんの音楽は意表を突くようなメロディラインが大好きなんですよ。 90年代に勢力な活動をされてから、ご結婚後はライブをストップしていたみたいですが、最近はまた再開されているようですね。作中の何が「女神」かは読んでくれた方の想像にお任せします。 ――音楽から着想を得ることは多いですか。 なかの:作業中に音楽を聴くことが多いですが、漫画の内容に関わるような着想を得ることはないですね。ただ曲のイメージやMVの雰囲気からアイデアをもらって表紙を描くことはあります。 ――今は仕事をしながら制作されているそうですが、そのバランスはどのように? なかの:平日は朝早く出勤して、夜遅く帰る生活なんですよ。だから今は早起きして仕事前や夜に隙間を見つけて作業しています。あとは土日とか。いずれは専業漫画家になりたいですが、子供と関わるのが好きなので、そういう仕事を何かしながら続けるのが理想ですね。 ――影響を受けた作品や作家は? なかの:『クレヨンしんちゃん』や『NARUTO』、黒田硫黄先生の漫画、90年代の少女漫画などが好きでした。影響は受けやすいです。 ――今後の展望についても教えてください。 なかの:今は商業デビューに向けて頑張っているところです。大きなテーマは伝えられないかもしれませんが、読んだら心の片隅に残り続けるような熱い漫画を書ければ嬉しいですね。あとは子どもの世界を描いて、大人の方にも共感してもらえたら。
小池直也