「革マルとの決別」... 動労のカリスマ・松崎明が仕掛けた「まさかの」裏切り行為と「JR」の誕生に隠された真の「狙い」
安倍元首相が国士と賞賛した葛西敬之が死の床についた。政界と密接に関わり、国鉄の民営化や晩年ではリニア事業の推進に心血を注ぎ、日本のインフラに貢献してきた。また、安倍を初めとする政治家たちと親交を深め、10年以上も中心となって日本を「事実上」動かしてきた。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 本連載では、類まれなる愛国者であった葛西敬之の生涯を振り返り、日本を裏で操ってきたフィクサーの知られざる素顔を『国商』(森功著)から一部抜粋して紹介する。 『国商』連載第23回 『「常に眉に唾をつけていました」狡猾に擦り寄る「革マル」とたった一人の男の「国鉄民営化前夜」の争い』より続く
改革三人組の相克
最大労組の国労を骨抜きにする国鉄の分割を進めるにあたり、先鋭的な動労を抱き込んだのは、葛西の戦略だったに違いない。ひょっとすると、中曽根政権の参謀である瀬島龍三から授けられた作戦かもしれないが、葛西自身が鬼の動労と呼ばれた松崎の革マル派との決別、コペルニクス的転回を信じた結果でもあった。三人組のリーダー格である井手は、やはり松崎の変心に懐疑的だった。こう話す。 「松崎はこっちにどんどん迫ってきました。これまでの組合の大会は申し訳なかった、と頭を下げ、労使共同宣言に率先してサインするわけです。ある意味、互いに疑わなかったのでしょうね。松崎も葛西君のことを信じていました。それだけに、あとの反動が大きかったのですが……」 国鉄民営化前夜の労働組合交渉において、動労が賛同した労使共同宣言はことさら大きな出来事だったといえる。労使双方にとっての懸案は民営化後に避けられない人員削減だ。もとより国労はそこに猛反発した。が、国鉄最後の総裁となった杉浦喬也の下、2回にわたって経営側と国労を除く労働組合が合意、なかでも動労が積極的に協定に協力したのである。 同盟系の鉄労と公明党系の保線職員組合である全施労はもともと御用組合の色合いが濃いのですぐに共同宣言に賛同した。一方、動労はナショナルセンターの総評を牽引する国労と歩調を合わせてきたが、そこから脱け、政府機関である再建監理委員会の方針に従った。過去、ともに国鉄経営陣や自民党と闘ってきた鬼の動労の転換は、国労からするとまさに裏切り行為に映ったに違いない。 そして批判の矛先を動労に向けた。