地域を潤した〝宝の山〟の荒廃が止まらない 高齢化で管理者不足、数年で休耕田を竹やぶに…町の危機感は募る さつま
鹿児島県さつま町は、竹林面積(民有林)が県内市町村で最大の2409ヘクタールを誇る「竹のまち」として知られる。豊富な素材を生かしてタケノコや工芸品の生産が盛んな一方、近年は高齢化などによる管理者不足で放置竹林が拡大する。急速に周囲に広がる竹は他の植生に悪影響を及ぼすこともあり、対応が課題になっている。 【写真】〈関連〉放置され荒廃している竹林=10日、さつま町求名
9月下旬、さつま町泊野の竹林にチェーンソーの音が響き渡った。機材を巧みに操るのは、タケノコ生産農家の三腰初二さん(89)。8月末の台風10号の影響で複数本が倒れ、伐採作業に追われた。 竹は根が浅いため強風などで倒れやすく、台風10号の時は町内各所で通行の妨げになった。傾斜地では土砂災害の危険性も高まるとされる。 定期的に間伐し、倒れた竹は撤去する必要がある。陽光が地表に届かず、タケノコが生えにくくなるためだ。「後々面倒になるので、できるだけ早く伐竹しないと」と三腰さん。額の汗を拭いながら重さ数十キロにもなる倒竹を切り分け、邪魔にならない場所に移した。 今は手入れの行き届いた竹林を維持できているが、管理を継いでくれる人はいない。「寂しいが、自分がいなくなれば竹やぶになるだろう」とこぼした。 ■ ■ 竹は種類にもよるが、ピーク期には1日に1メートル以上伸び、2カ月ほどで20~30メートルまで成長する。地下茎で周囲にすぐ広がる特性があり、山間部の休耕地が数年で竹やぶになる事例も多い。周りの造林に侵入して日光を遮り、低木をはじめ他の植物種の成長を阻害する“やっかいもの”の一面もある。
特に放置竹林では密集して生え、枯れた後も残ってやぶになる。人が入りにくいため、イノシシなどの侵入も許しやすい。 竹林は定期的な管理を求められるが、町内では中山間地の傾斜地に多く、重機による作業がしづらい。人の手に頼らざるを得ないが、高齢化や重労働による担い手不足もあって放置が増える。加えて「私有林が多く実態把握が難しい」(町農林課)という事情もある。 放置竹林の間伐などを有志で担う「竹林セイバー」の林業原田満雄さん(42)=同町白男川=は、竹林までの林道の少なさも拡大の一因と指摘する。 タケノコや切り出した竹を搬出する場合に車は必須だが、林道が整備されていないと作業は難しい。一つの山に複数の竹林があることも多い。「ただでさえ業界は人手不足。管理できる区域にも限界がある」 ■ ■ 町は放置竹林の解消に向け、整備のための補助事業を実施している。荒廃した竹林をタケノコ生産林に改良する時は、事業費の6割を補助。県の同様の事業を合わせると、町内では2024年度に申請分で2.81ヘクタールが生まれ変わる。
このほか事前に届け出ている事業者に竹を持ち込むと、買い取り価格に町が一定額を助成する。23年度からは出荷者の所得向上のため、1キロ当たり3.3円と1円上乗せしており、年間の持ち込み量は1831トンに上った。 各事業とも一定の成果は上げているものの、担い手不足のため利用者は減少傾向。抜本的な解決には至っていないのが現状だ。 これまで町に放置竹林による実害は寄せられていないという。ただ町農林課の危機感は強く、「まずは里山において個人管理から集落ぐるみでの対応を促すなど、知恵を絞らなくては」と今後を見据える。放置防止に向け、模索は始まったばかりだ。
南日本新聞 | 鹿児島