嶺岡牧の遺構に木戸を復元 ワークショップに30人 南房総(千葉県)
日本大学生産工学部建築工学科の学生らと、地域の有志で進めてきた「古文書から嶺岡牧の木戸を復原する」プロジェクトで5日、南房総市大井の遺構に牧の出入り口となる木戸が復元された。現地でワークショップが開かれ、関係者と一般の計30人余りが、設置作業の見学と周辺の遺構散策で往時に思いをはせた。 「嶺岡牧の歴史的価値と、重要性を知ってもらう足掛かりにしたい」と、同大学院生産工学研究科建築工学専攻の修士2年、金子暉さん(24)が中心となり「復原する会」を立ち上げ、同大の学生と、地元の嶺岡牧スチュワード協会、嶺岡牧を知って活用を考える会の域学連携で、昨年から準備を進めてきた。
木戸の復元に当たっては、嶺岡牧スチュワードの白石典子さん(56)が、嶺岡牧に関する古文書をデータベース化する中で発見した各部材のサイズ、建て方などに関する記述を基にした。 外斜面と牧場を隔てる野馬土手に再現された木戸は、高さ、幅ともに約2・5メートル。木戸の大きさが視覚的に分かりやすいよう、放牧されていた当時の馬と同サイズのパネルも置かれた。 ワークショップでは白石さんが、嶺岡牧を管理していた牧士の1軒、石井家で見つかった古文書に▽材料となるスギの太さや本数、切り出す場所▽切り出しから部材をつくり、設置するまでの人手と賃金▽本柱や笠木(かさぎ)といった各部材のサイズ、くぎの寸法――などが、「現在の見積書的に細かく記載されている」ことを紹介。 金子さんは、木戸について▽本柱などは90センチ埋めて、掘っ建てている▽くぎは筋交い(すじかい)だけで、固定は込み栓(こみせん)という工法が用いられている▽扉はちょうつがいではなく、寺社の藁座(わらざ)のようで、臼木と呼ばれる部材で扉の軸を挟んだつくり――であることなどを解説した。 木戸は、設置場所が私有地のため、この日限り。金子さんは「いったんは解体して保管になるが、地域のどこかで組み立てて、展示ができればと考えています。なにより遺構をしっかりと保全していくことにつなげたい」と話していた。 嶺岡牧は、国内に4カ所存在した江戸幕府直轄牧の一つで、鴨川市から南房総市にまたがる外周約80キロ。首都圏にありながら保存状態が良く、唯一全貌を見ることができる重要な歴史遺産という。 調査で牧経営の実態なども明らかになってきているが、遺構は野生動物に荒らされ、野馬土手や木戸、陣屋跡といった遺構の分布が周知されていないため、災害復旧の際に誤って破損したり、開発によって損壊されたりする事例も発生している。 (伊丹賢)