「鉄の処女」伝説の真偽を明かす衝撃のクライマックス! それでも人は伝説を愛す!
伝説はなぜ心を掴んだのか
とはいえ「鉄の処女」伝説が、どうして特別に人びとの関心を惹き、広く伝播し、メルヘンや映画にも登場してくるのであろうか。筆者はこのような伝説が好まれ、人びとのこころを掴んだ理由を5点挙げておきたい。 1. モティーフがキリスト教徒にとってもっとも身近な「聖母マリア」であったこと。 2. 異端狩り、魔女狩りのなかで残酷な拷問、処刑が実際に行われていたこと。 3. 拷問、処刑、死体の処理方法がミステリーじみており独創的で、強烈なインパクトを与えるものであったこと。 4. 伝説にそった「鉄の処女」の複製が実際のところ製作され、博物館や展示場で人びとの話題をさらったこと。 5. エピソードは真実と受けとめられ、口伝によってもヨーロッパ中に伝播したこと。 日本で出版されている拷問具の本には、複製品が実際にあるため、魔女狩りの尋問の際にこのような処刑方法があったなどと、まことしやかに解説しているものも多いが、歴史的事実と伝説をはっきり分けて、虚像と実像を区別しておく必要がある。 なおわが国では、明治大学の博物館がこの「鉄の処女」を所蔵しているので、筆者もそれを見学した。たしかにこれも資料としては重要であるが、実際に使われていなかったことははっきりしている。 (『拷問と処刑の西洋史』より) * * * 「鉄の処女」伝説にかかわる本記事の前半部は「奇想の拷問具、「鉄の処女」伝説の虚実を暴く! 「聖母マリア」は罪人を抱いたか?」で!
浜本 隆志(関西大学名誉教授)