福井の大雪報道、全国紙と地元紙の違い──ニュースは誰のためにあるのか
雪捨て場、ごみ収集……「地元の人しか読まない」情報も伝える
この記録的大雪で福井新聞が発信しているのは、こうした全国ニュースや紙面に掲載されている記事だけではありません。 福井新聞には、原発事故や震災といった災害報道のマニュアルはありますが、大雪など県民生活に密接した災害取材についてはマニュアルがないといいます。しかし、福井新聞ONLINEでは「大雪関連情報のまとめ」のコーナーを立ち上げ、雪捨て場や小売店の営業情報、ごみ収集情報などを載せました。 「雪捨て場やごみ収集の情報は、地元の人しか読まないでしょう」と八杉さんはいいます。それでも声の多かった渋滞などの交通情報の発信など、できる限りメールやSNSによる要望に応じようと判断しました。どんな対応をすべきか、マニュアルはありませんが、自分たちも「同じ大雪の中で生活する県民」という視点と、五六豪雪当時にはなかったSNSの活用が生活密着の情報発信につながりました。 掲載するときは「国道8号の渋滞にあっている人向けや、試験を間近に控えた受験生向けに」など、その情報を必要とする人々を想定。通常の紙面では載せ切れなかったり、対応が難しい「日時、曜日、その時々に合わせて必要と思われる」きめこまやかな情報発信を心がけています。
国道8号「ほぼ渋滞解消」のデジタル発信、全国向けの視点
この大雪をめぐるデジタルニュースで、だれに向けて報道しているか、全国紙と地元紙の視点の違いを感じたことがあるといいます。 国道8号の立ち往生について他紙が「ほぼ渋滞解消」と発信、ヤフーのトピックスで取り上げられました。この報じ方は、「全国向け」で「県民向けには不適切」と八杉さんは同僚らと意見交換しました。 「国道8号の渋滞に関係がない人にとっては、『ほぼ解消』も『解消』も同じ受け止められ方になるかもしれませんし、『ほぼ解消』を誤報とも思いませんが、われわれが『ほぼ解消』とデジタルで報じたならば、県民は『解消した』『間もなく解消』と解釈し、国道8号へ向かうかもしれません」 福井新聞でも朝刊紙面には、時期のめどを示して「ほぼ解消」とうたっていいと八杉さんは考えます。しかし、情報がほしい人にすぐに届くデジタル発信を行うことで、どのような影響が起きるのか。「顔が見える地元新聞社」ならではの責任を感じています。 「当事者にとってのニュースを伝えるのは地元紙だけだと、あらためて感じました。一層、県民の視点で報じたい」。福井新聞の今冬の大雪報道はまだ続いています。 ■福井新聞社(本社・福井市、代表取締役社長・吉田真士)。1899(明治32)年創刊。人口約78万県民に対し、発行部数19万7272部、全国地方紙トップクラスの普及率68.07%(部数・普及率2017年上期ABC調べ)。