アングル:米大統領選、僅差の戦いで在外有権者に照準
Makini Brice [パリ 22日 ロイター] - パリに住むボブ・バリエさんは過去30年間の大部分を米国以外で暮らしてきたが、11月5日の米大統領選の期日前投票は出身地の米中西部ミシガン州で済ませた。 在外民主党のLGBTQ+(性的少数者)幹部会会長を務めるバリエさんは「米国で起こることは、世界の他地域にも影響することを私は知っている。私は世界の他地域で生活してきたので、このことを知っている」と話した。 バリエさんの投票や、外国にいる他の米国人の票は、ミシガン州のような激戦州での僅差の戦いでは極めて重要かもしれない。ミシガン州は今回の選挙で最も熾烈な激戦州の1つで、最新の世論調査では民主党候補のハリス副大統領が共和党候補のトランプ前大統領をわずかに上回っている。 民主党全国委員会(DNC)は、外国にいる約160万人の米国人有権者が激戦7州のいずれかで投票する資格があると見積もっている。激戦州にはミシガン州の他に西部アリゾナ州、ネバダ州、南部ジョージア州、ノースカロライナ州、東部ペンシルベニア州、中西部ウィスコンシン州がある。 この層は民主党寄りだと考えられている。DNCと連携した超党派の有権者支援ツール「ボート・フロム・アブロード」の利用者のうち、2020年の前回大統領選で在外有権者の4分の3が、自分は民主党支持者だと述べた。 そこで、DNCは大統領選挙で初めて在外米国人の投票登録を支援し、郵便投票業務などの取り組みを強化するために約30万ドルを在外民主党に提供した。ソーシャルメディアでは、在外米国人に投票用紙を米国に送るよう促す広告を掲載している。 DNC広報担当者のマディ・マンディさんは声明で「今回の選挙はぎりぎりのところで勝敗が決するので、1票1票が重要だ」とし、「私たちは有権者がどこに住んでいようとも、全ての有権者を巻き込むことで今回の選挙に勝利する」と訴えた。 <トランプ氏は二重課税廃止と主張> 共和党候補のトランプ前大統領も、在外駐在員を狙っている。トランプ氏は今月、在外米国人に対する二重課税を廃止すると主張した。 トランプ氏陣営は、この政策がどのように機能するのかの詳細を明らかにしていない。ただ、米国民がどこに住んでいるかに関係なく、米国内で所得税を申告することを義務付けた要件を廃止する可能性がある。 シンガポール在住のフィンテックコンサルタント、ゼノン・カプロン氏は、トランプ氏の提案が大統領選での検討材料になるかどうかとの質問に対して「もしも外国居住者のための税制改革に真剣に取り組むならば、私の決断に影響するかもしれない」と語った。 在外共和党のソロモン・ユー最高幹部は共和党が在外米国人の税制を改善するために長年闘ってきたと主張し、それが在外駐在員の投票に「完全に」影響を与える可能性があると付け加えた。 一方、トランプ氏陣営とほぼ一体化している共和党全国委員会(RNC)は、特にペンシルベニア州の在外有権者に投票資格がないとして訴訟を起こしている。勝訴した場合、投票できる在外米国人が減ることになる。 これに対して米議会下院の民主党議員6人は、この訴訟が「軍人の憲法上の権利に影響する」のではないかとする書簡を国防長官に送った。さらに、下院共和党の主張は「不和と誤った情報をまき散らそうとする」試みだと反発した。 ミシガン州とノースカロライナ州では、共和党が在外米国人の一部の投票を阻止するために起こした2つの訴訟が21日に棄却された。 <投票のハードル> 主要政党や外部の専門家によると、在外有権者は440万人から900万人いると推定されている。在外有権者の課題は、投票する見込みなのはごく一部だということだ。 他の多くの国とは異なり、米国の有権者は選挙当日に大使館に並んで投票することができない。代わりに通常は郵便で、登録している州に投票用紙を送らなければならない。 米連邦投票支援プログラムによると、在外有権者の大部分は投票しない傾向があり、20年の前回大統領選で投票用紙を送ったのは8%未満だったと推定されている。前回大統領選の全体の投票率は67%だった。 22年の中間選挙での在外有権者の投票率はわずか3.4%だった。 パリ中心部のある地区では、カフェの外でボランティアらが毎週月曜と火曜の午後にスタンドを構え、米国人向けに投票方法をナビゲートすることで投票率を増やそうとしている。 ボランティアらは2時間をかけて投票登録の手続きや、投票用紙への記入がうまく行かなかった時の方法を助言している。 ボランティアの1人で、引退した弁護士のターニャさんは「問題なのは(投票の)指示書が理解しにくいことだ」と語った。