コナン細菌、クマムシ...放射線に強い生物の「耐性メカニズム」は「被曝リスク時代」の希望となるか
<「地球最強生物」との呼び声>
ところで、放射線耐性が高い生物というと、「クマムシ」を思い浮かべる人も多いでしょう。 クマムシは0.05~1.7ミリ程度の小さな生物で、約1500種が確認されています。世界中のいたるところに生息しており、100℃からほぼ絶対零度(マイナス273.15℃)、真空から75000気圧まで耐え、体内の水分量が3%になっても休眠状態になってしのぐことから「地球最強生物」とも呼ばれています。放射線耐性は、半数致死量が3000~5000グレイとされています。 最近はクマムシの高い放射線耐性や特殊な生命力の謎を解明し、ヒトに役立てようとする研究も進められています。本年10月には、中国・青島大の研究グループが「新種のクマムシにヒトの致死量にあたる放射線を照射すると、遺伝子が活性化された」と発表しました。研究成果は世界最高峰の総合学術誌「Science」に掲載されました。 研究チームは、中国河南省の苔から見つかった新種のクマムシ「Hypsibius henanensis」の様々な性質を調べていました。遺伝子検査をすると、1万4701個の遺伝子が存在し、そのうち約3割にあたる4436個がクマムシ類にしか見られない特殊な遺伝子であることが分かりました。 さらに、ヒトでは即死レベルの放射線量(200グレイと2000グレイ)を新種クマムシに照射してみると、2801個の遺伝子が活性化することを発見しました。活性化した遺伝子は、放射線で損傷を受けたDNAの修復や免疫反応の調整などに関わっていると考えられます。 <放射線耐性に関わる3つのメカニズム> 詳細な分析の結果、研究者たちは放射線耐性に関わる3つのメカニズムを発見しました。 1番目は、クマムシに特異的な遺伝子「TRID1」です。放射線によってDNAが切断されると修復を助ける特殊なタンパク質を呼び寄せる働きをすることが分かりました。これによって、通常の生物よりもはるかに速くDNA損傷を回復できると考えられます。 2番目は、「DODA1」というクマムシが進化の過程で他の生物から取り込んで獲得した遺伝子です。放射線に反応してクマムシの体内で、主に植物や菌類、細菌などにみられる4種類の抗酸化物質(ベタレイン色素)を作り出していました。ベタレインは放射線によって生成される有害な活性物質の60~70%を無害化し、放射線耐性を上げる役割を果たすと研究チームは説明します。 3番目は、エネルギー生産に関わるシステムです。ミトコンドリアの中で、細胞のエネルギーとなるATP(アデノシン三リン酸)の産生に関わる「BCS1」と「NDUFB8」という2つのタンパク質が、放射線に反応して増加していました。これらの働きによって、DNA損傷の修復が促進されるようです。